俗に、あれは一目惚れというのでしょうか。

あたしはその頃、正直サッカーは少し、いやかなり苦手だった。もうこりごりだった。
死んだ幼なじみを思い起こさせるサッカーが、嫌だったのだ。彼は本当に楽しそうにボールを蹴っていた。まだ、自分が交通事故に遭うだなんて想像もしていなかった筈の、サッカーを愛していた彼。
あたしはあれ以来、サッカーボールを見ることさえ辛くて、サッカーから離れていた。周りの皆は再びサッカーと向き合っていたというのにあたしときたら、逃げるのみだ。本当に臆病で、どうしようもなく弱い自分だった。

だけどもそれでも、どうしても、あの感覚を衝動を激しい羨望と熱情を前にあたしは無力で、あれはきっと不可抗力でした。
あれほどサッカーに目を背けてきたあたしが、あろうことかグラウンドでサッカーをしているたった一人の男の子の姿に、どうしても釘付けになってしまった。
あたしは手にしっかりと握っていた鞄をドサリと落とし、ただただ、たった一人の男の子のサッカーに五感だとかいった感覚の全てを注いだ。周りの声が、一気に聞こえなくなる。代わりにざわざわ、身体中で何かが騒めき唸る音を、聴いた。
あの時のあたしは、正直どうかしていた。圧倒的に降り掛かるその感情を前に、不安になってあたしは「駄目だ。」と、何か本能で思ったのだけども、止めることなどあたしには到底不可能だった。

グラウンドでサッカーをする彼は、確か半田、だとかいったような気がする。特別目立つわけでもない、何てこともない男子だ。
だけども彼のサッカーにあたしは目が離せなかった。理由なんて、知る由もなかった。

どうしようもなくただ、呆然と立っていると、彼の蹴ったサッカーボールが、偶然あたしの足元まで転がってきた。彼はあたしの方に声をかける。背中がきゅう、と甘えた音をたてた。「悪い、こっちまでもらえる?」

思わず脚が、震えた。あたしがあれほどにまで避けてきたサッカーが、今目の前にある。彼の蹴っていたサッカーボールは、相変わらずあたしの足元で何てことない顔して転がっていた。
幼なじみの彼が愛していたサッカー。ふと、彼の言葉が蘇る。一生サッカーをやる。
本当に楽しそうにサッカーをしていた彼。交通事故に遭うことなど、知りもしなかった彼。一之瀬。ふと、彼が傍にいる気がした。「大丈夫だから。」あたしは彼に背中を押されたように、サッカーボールの方へと脚を運んだ。


「えい。」
ボールを蹴るのはいつぶりだろう。本当に懐かしかった。脚は、もう震えなかった。
半田の方に、ボールを蹴ってパスをしようとしたのだけれども、変に擦って彼とは別の方向へとボールは進む。相変わらずあたしはサッカーの才能がない。

だけども、彼はあたしの蹴った方向まで走り出した。それでボールを巧みに捕まえて、笑ってみせた。「間宮。ナイスパス、サンキュな」


あたしはその後、足の力が抜けて思わず地面にへたりと座り込んでしまった。「名前、なんで…」あたしはほぼ泣きそうになりながら、彼のサッカーを見ていた。キラキラ、光って見えてしまうものだから、あたしは本当に重症だ。
何故、彼のサッカーにこんなに胸を突き動かされたのだろう。
だけども、彼のサッカーだけが、あたしには眩しくてたまらなかった。くっきりとそれだけが、ただただ、奇跡みたいにしてあたしの内に光っていて、残り続ける。ただ、それだけだったのです。

恋をしてしまった。見つけてしまった。あたしの、奇跡。
泣き出しそうなあたしを見て、笑うだろうか。一之瀬。あたしの好きな人もサッカーをするの。そう言ったらきっと彼は嬉しそうに笑う気がした。胸が、きゅうと痛んだ。


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