いつだって、あの日から俺の胸は何だかざわついている。収まることを知らずにもやもやと蠢くそれは上手く説明出来ないのだが、ある一種の熱をもって発光するようにして身体中を蝕んでいた。
彼女を見ると、いつだって胸が苦しくなった。俺だけのものにしたくて、だけど叶わなくて、それでも一番傍に、いたかった。酷い我侭だ。それでも、彼女だけは、諦めきれなかった。いつだって、彼女のあの瞳が焼き付いて離れない。冷え冷えとしなやかな、それでいて熱く、響く。
例えるならそれは、突如にして俺の目の前に降り注いだ、初雪みたいだった。


帰り道、御本は沢山の大きな袋を両脇に抱えながら、よたよたと頼りなさげに歩いていた。耐え切れずにその袋のうちの一つを、手に取る。「わ、豪、炎寺。」ずしり、手に取った御本の荷物の重さが、伝わる。こんなものを持っていたのか。女子であるというのに、無理して。思わず溜息が零れる。

「荷物、持つ。」
「え、いいっていいって。ほら、こんなの楽々、」
俺から再び荷物を奪って手を挙げると、御本はまたよろよろとふらついた。倒れそうになるところを、彼女の腕を掴んで間一髪止める。こいつはどうも危なっかしい。
掴んだ彼女の腕は思いの外細くて、頼りなかった。夕焼けの中白く発光するそれは、あまりにも儚くて、消えてしまうのかとさえ、そんな馬鹿みたいなことをぼんやりと考えていた。

「…どこが楽々なんだ。」
御本は俺が彼女の腕を掴んでいたこともあって珍しく「…すみませんでした。」と呟いてから、素直に俺に荷物を預けた。
再び感じる荷物の重量感。こんなものを、こんなに細い体で一人で抱え込んで。どうも御本は自分に無頓着である。今日だって、自分の誕生日を忘れていたのだ。こんなに御本の誕生日を祝いたがる人がいる、というのに。いつだって自分のことはそっちのけで、それは俺からしたら、何だか腑に落ちない。


「…もう少し、自分のこと考えろ。」
不意に口をついた言葉に、御本も驚いていた。普段ならば、はいはい、だとか、そういった生返事が返ってくるのだが、今日は俺が御本の腕を強く掴んでいたから、違った。
「…ご、えんじ」御本が、俺のことを見る。ああ、やっぱり胸がざわめいて、やまない。冷え冷えと、それでも確かな熱をもった、あの初雪みたいに。季節は真逆であれど、何故かそう感じてしまうのだ。

「お前は、いつも人のことばかりで。自分のことももう少し、ちゃんと」
思わず御本を掴む手に、力がこもる。それでも御本は真っ直ぐに俺を見た。夕焼けに彼女の白い肌が映える。温かいオレンジが俺達二人を縁取って、何だか、夢みたいだった。
世界に、二人だけならばどれほど良かったのかと。そんな馬鹿みたいなことを、ぼんやりと考えていた。
それから、御本は少し困ったような顔をしてみせてから、それから少しだけ、笑った。…だから、心臓に悪い。


「…豪炎寺が、考えてくれるだろ。」


それから俯く彼女の耳が空の色と全く同じように赤みを帯びていたのは、夕焼けのせいなのか、それとも気のせいなのか。どちらでもないと、いい。そんな馬鹿みたいなことを考えながら、今日も俺は、この胸のざわめきに身を預けるのだ。
あの日からやまない、止まり、収まることを知らない。答えを求めながら、否、そんなのもう、とっくに解けているのだろう。この強く、胸に残り降り注ぎ続ける熱くて冷たい、それ。



初雪は、とけい。

Happy Birthday!!悠ちゃん
律騎ちゃん、悠ちゃんお借りしました。

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