昴はよく、空を見上げて歩く。今も俺の隣にいる昴は夜空をじっと眺めていた。それは何か、その夜空を忘れないようにその脳裏に焼き付けようと、まるで写真を切り取るかのようにしてあまりにも必死なものだから、俺は隣でぼんやりとその昴を見ている。彼女の大きな瞳に映る夜空が、煌々と宝石のように揺れていた。
だけども俺のことを見てくれないのは何だか癪だから、その小さな手をきゅ、と包み込んだ。昴が少し微笑みながら、此方を見る。今度は夜空ではなく、その瞳には俺が映されていて、何だか少しだけ、夢みたいな心地がした。

そうだ、全部が信じられなかった。出会ったときから大切で、小さくて頼りない昴を守っていこう。そう決めていたのに、引き離されて。それからは何も見えない宇宙で必死に二人でもがいて、一番触れたかったのに突き放して、それでも再び見つけ出した。ずっと、昴だけがほしかった。昴だけを、守っていきたかった。
どれだけ遠くに居たのだろう。それでも再びまた俺たちは広い宇宙の中、巡り合えた。俺はそれは、言葉にしたら昴に笑われそうだけども、運命のようだと感じている。磁石のそれのように、俺たちはどうしたって、巡り合う。たとえ引き離されても、結局惹かれあうのだ。こうして考えると、やはり俺には昴しか、ありえないんだ。

だからこそ、今隣で昴の手を握っていることが、信じられない。またどこかにいってしまいそうで、見失ってしまうかと、いつだって怖くて仕方がないんだよ。だって、一度別れを経験した俺たちは、一緒に生きていることは当たり前ではないということを知っているから。

そして今俺は昴の一番近くで、幼い頃に俺が彼女にあげた、誕生日を迎えようとしている。


―――


時計を見ると、針は丁度23時55分辺りを指し示していた。誕生日を一緒に迎えようと言ったのは、ヒロトだ。夜空を見上げれば、辺りに星が点々と散らばっている。都会だからこそ星が絨毯みたいにして辺り一面に溢れているような空を見ることは出来ないけれど、それでも私には十分だ。いつか、美しい夜空をヒロトと見に行きたい。

星空を見上げることを教えてくれたのは、ヒロトだ。頼りなくて弱かった私を泣き止ませるために、ヒロトはよく夜空を見せてくれた。昴、ほら一番星。私は彼が指差すその恒星を、今でも鮮やかに思い出すことができる。真っ黒な画用紙のような夜空に、ぽっかりと穴が空いたようにして光り輝く、恒星。離ればなれになっても、私はその一番星を見つけようとするかのように必死に求め続けた。そうして再び見つけることが出来た、私の一番星。ヒロト。ヒロトもあの一番星を、覚えているだろうか。


「…あと少しで7日になるよ、昴」
「あら、本当」
時計は更に進んでいて、もう少しで私は誕生日を迎える。ヒロトは私の手を何かを確かめるようにして握ってみせた。「なあ、に」私は笑ってその手を握り返すと、ヒロトは安心したように目を細めた。

「あと、1分くらいね。」
「…ねえ、昴。目、閉じて。」
「え?」
恍ける私に、ヒロトはあの園で私を安心させてくれたみたいな、あの子供みたいな笑顔を見せて言った。「カウントダウンをするんだよ。」
「…どうして目を瞑る必要があるの。」
いいから。彼に言われ、目を閉じる。辺りは急に、何も見えない真っ暗闇になった。


「…20秒前。」
そういえば、私はヒロトと出会う前まで、こんな真っ暗闇の中にいた気がする。瞼の裏には、あの、小さくて泣き虫な弱い私がいた。いつだって不安で仕方がなくて、何かに怯えて。

「10、9、8、7」
そんなただ弱かった私の目の前に現れたのは、ヒロトだったのだ。いつだって私の手を引いて、翔けていった。怖くて怖くて仕方がなくても、彼が居てくれたら再び見る景色は色付いて見えた。ヒロトに追いつきたくてサッカーをして、ただ彼に見てほしくて必死だった。それだけ、あの頃の私は、ヒロトしか見えていなかったのだ。暗闇も、もう怖くはなかった。だって、それはヒロトが歩いてきたそれだったから。


「6、5、4」
それなのに、別れを知らされるのはいつだって突然にくる。運命は残酷だ。それまで私の隣にはヒロトがいることが当たり前で、ヒロトが居るから私の世界は成り立っていて、そうだ寧ろ、ヒロトが私の世界だったんだ。
そんな世界を突然に奪われて、引き離されて。それでも私たちは必死になって、お互いを求め続けた。いつだって一番に、お互いがほしかった。だけども見えなくて、泣いて傷ついて、それでもあの日の面影を求め続けた。不器用で、どうしようもなかった私たちだけども、それでもまた取り戻す。


「3、2、」
別れを経験した私達は、今こうして一緒に生きていることが当たり前ではないことを、知っている。
こうして一番近くで呼吸を感じていることも、握られている手の温もりを感じていることも、全部別々の道を歩んできてやっと、巡り合えたからこそ得られるものだ。だからこそ、私は彼と再び巡り合わせてくれた全てに感謝している。
だけども、どうしても思ってしまうのだ。自信に思ってしまう。


「1」
私はどんなに遠くに離れていても、私はヒロトを見つけ出す自信が、あるのだ。どこにいたって、きっと彼は私を求め続けるだろうし、私も彼を必死に探し続ける。別々だなんて、そんなの、嫌だ。これだけはどうしても、譲れなかったのだ。だから、どうしたって私たちは果てないこの宇宙の中で、出会っていくのだろう。何度だって、どこにいたって、取り戻していく。

だってその証拠に今、私達は一番近くで生きているじゃない。


「0」
ゼロ。そう彼の声が聞こえたのと、私の唇に彼のそれが触れたのは、同時だった。
一気に真っ暗闇から、光輝く眩しい世界へと引き込まれていく。ああそうだ、いつだって私を引き上げてくれるのは、ヒロト。ねえ、ヒロトだったんだ。瞳をゆっくりと開けば、目の前で彼が微笑んでいた。その赤色が見える世界で、私は生きていく。それがある限り、私はきっと、どこまででも行ける。


「…随分、ロマンチックなことを、するのね。」
「嫌だった?」
「…分かってるくせに。」
嫌なわけが、ないじゃない。だけども彼もそれを知っている筈だから、そう言ってみせると、また彼は笑った。私はもう一度、その手を握り締める。確かめるようにして、彼への想いをはかるように。
ヒロトは私を見つめて、ゆっくりと言った。可笑しいわ、涙もろくはない筈なのに。何だか幸せを噛み締めてみたら、変に胸がいっぱいになってしまった。別々の呼吸を合わせて、私たちは再び同じ道を歩いていく。


「昴、生まれてきてくれて、本当にありがとう。」




ぼくたち宇宙まんなか歌をうたう


♪セントエルモの火:BUMP OF CHICKEN
Happy birthday!!昴ちゃん
むう 昴ちゃん拉致りました。ストーカーっぷりに全世界が泣いた。

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -