同じ時に生まれて、一番長く一緒に時を過ごしている。それなのに、俺と美桜はあまり似ていない。双子ということにさえ気付かれないことが多い。いつからだろう。昔はまだ似ていた気がする。だけど今では、俺が右を選べば美桜は左を選び、本当に正反対だ。離れて暮らしていたからだろうか。別に似ていたかったわけではないけれど、時々昔よりも広がったように感じる隙間を感じて、酷くもどかしい。



「…葉瑠ー、起きてるー。」
夜中、突然ドアをノックする音が聞こえる。昔は同室に寝ていたけれども、大きくなってから今では隣部屋だ。俺の部屋には、昔一緒に寝ていた古びた二段ベッドが今でも置いてある。上に眠る美桜の寝息を聞いてから、落ち着いて眠るのが好きだった。思い出して懐かしくなる。するとふと、目の前でぱん、と、手を叩かれた。驚いて見ると、美桜が頬を膨らませて目の前に立っていた。

「ちょっと、葉瑠ーまたぼうっとして。」
「…あ、うん。美桜こそ、いきなり何…。」

いきなり何って、水臭いなあ。美桜はそう言いながら、俺の隣に座る。こうしてゆっくりするのも久しぶりな気もする。近くで美桜を見たら、何だか昔より大人びていて驚いたけれども、それから俺も大きくなっていたんだった、と気付いた。時間が、経ったのだ。


「時計は、と。よし、おっけー」
「…何、珍しいね、美桜。何考えてんの」
「ほら、誕生日、12時になった瞬間二人でお祝いしよ?」
昔よくやったじゃん、そう笑う姉の表情は少しだけ昔のそれと被った。「…よく覚えてるね。」俺も時計を見るために近寄る。何か甘い香りが鼻孔をくすぐった。二人で時計を覗きこめば、ちょうど、あと1分ほどで12時だ。

「…昔、よく誕生日に二人でこうやって12時になるの、待ってた、ね。」
言えば、美桜は笑った。「そうそう、夜更かしは駄目ーって言われてたからお母さんに隠れて、こっそりやってたね」お互い顔を見合わせてから、瞬間無言になる。美桜の方も、久々に俺の顔をまじまじと見たようで、何だか戸惑っていた。俺だけじゃないらしい。

「…何か、さ。こうして葉瑠とゆっくりするのも久しぶり、じゃない?」
「…アメリカから帰ってきたばかりだしね。」
「そう…。アメリカ…。」
再び訪れる沈黙に、どうしたものかと首を傾げた。いくら久々だとはいえ、明らかにおかしい。俺と美桜はだいぶ仲の良い方の姉弟だ。それなのに、今日に限って美桜もぎこちない。そんな中、美桜が服の裾をぎゅ、と掴んできた。驚いて見れば、神妙な顔つきをしている。

「あの、さ。葉瑠。どうしてあの時、一緒に日本に帰らないで、一人だけアメリカに残った、の」
「…え。」
「ごめ…。考えすぎかもだけど、もし、葉瑠がこうやって一緒にいるの、もしかしたら嫌だったのかなって、思った、ら」
「美桜。」

返しに、美桜の服の裾を掴むその手を握ってみた。昔は全く同じサイズだったそれは、今は少しだけ俺の方が、大きい。
「…アメリカに残ったのは、まだやりたいことがあったから。俺はちっとも今こうして父さんや母さんと、美桜と一緒にいるの、ちっとも嫌じゃないし、離れたいなんて思ったことも、ないから。」
「は、る。…分かりにくいんだから!ばか!」
ぺちん、と頭を叩かれる。中々痛い。何だと顔を上げれば、美桜は少しだけ泣きそうな顔をしていた。

「美桜?」
「…は、あ。葉瑠は何も言葉にしてくれないし、分かりづらいし、訳分かんないことするし、ふらふらどっか行くし、もう本当、」
「…すみません。」
「…でも。生まれてからずっと、傍いるし。代わりなんて、いないんだよ。」
また、自分のせいでなどと余計なことを心配していたのだろうか。本当、昔から相変わらず心配になる姉だ。もう一度その少しだけ小さな手を握れば、小さく握り返してくる。

「…美桜。ただいま?」
「…うん。葉瑠、おかえり。」
小さい頃は、離ればなれになる時が訪れるだなんて、考えたこともなかった。生まれた時から傍にいて、嬉しいことも悲しいことも、いつだって半分で一緒に大きくなった。俺らはいつまでも一緒の小さな子供部屋で遊び、めいいっぱい外でサッカーをし、たまには母さんに一緒に叱られ、それで一緒にいっぱい笑うのだと、信じてやまなかった。美桜が隣で笑っていれば俺も安心したし、美桜も俺が隣で手を握ればすぐに泣き止んだ。あんな、蒼くて眩しい日々が、永遠に続くのだと、そう思っていた。だけどアメリカに一人でいても、あまり寂しいとは感じなかったのは、離れていても見えない何かで繋がっているような変な安心感があったからだ。それは美桜もそうだと思う。それは言うであれば一種の赤い糸、のようなものだったのではないだろうか。見えなくても、傍にいる。やっぱり、俺たちはちゃんと双子なんだろう。


「あっ、は、葉瑠!」
「なに」
「12時、もう過ぎてるんだけど!!」
「…えー」

大きく溜息をつく美桜に、思わず笑った。何だかんだ危なっかしいところも、笑うと少しだけ困ったような顔になるのも、大きな桜色の瞳も、全部、全部変わっていない。俺たちは離れていた時間を取り戻すかのように、その夜二人で話し続けた。離れていた間にあったこと、学校の話、サッカーの話、父さんと母さんの話、テレビの話。他愛のないものも多かったけれど、それでも空白の時間を埋めるのには必要だった。中でも半田くんを好きになったと照れながらに報告する美桜には思わず苛立ちが隠せなかったけれど、まあ彼女が幸せそうだからまあ良しとでもしようかと思う。


「…ね、葉瑠。」
美桜に「ん?」と聞き返すと、照れくさそうに笑ってみせた。
「今日、その二段ベッドの上で寝ても、いい?」

昔と全く同じだった。美桜が上の段で、俺が下の段。二人で永遠と話しながら、いつのまにか寝てしまう美桜の寝息を聞きながら眠りにつく。懐かしくて、目を細めた。離れていてもどこかで繋がっている気がして、お互いに大丈夫だったけれども、それでも、やっぱり近くにいる方が、いい気がする。明日は久しぶりに二人でサッカーをしようか、なんて。俺のプレーを見て笑ってくれるだろうか。俺たちにはまだ、長い長い時間が残されている。幼い頃に見た、夕焼けが蘇った。あの日見た色と、今でも同じ色が見られると、いい。



桜草揺れる季節


4/28 Happy Birthday!!美桜&葉瑠

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -