あたしは占いとか信じてしまう質だから、赤い糸だってあると思っている。こんなこと恥ずかしくて大きく口に出しては言えないけど、それでも、あたしは信じているのだ。赤い糸、までとはいかずとも、つがいのようにパズルのピースを埋めるかのように、誰もにぴったりと当てはまるたった一人の誰かがいると思う。それは言葉で表してしまえば全くもって陳腐で恥ずかしいけれども、いわゆる運命、というやつだ。
はっきりとあるとは信じがたいそれだけども、あたしにはあの二人にそれがくっきりと目に見えた気がしたんだ。だって、あんなにお互いを必要としていて救われている二人なんて、いないもの。何があっても二人なら大丈夫だ、と思わされてしまうようで、まるで神様に味方されたみたいな二人だった。あれを運命と呼ばずして、なんて呼ぶのだろう。


「…どう、して?」
それなのに、どうしてだろう。沙雨ちゃんの卒業式の日、あたし達は雷門OGOBとして久々に母校に集まった。久しぶりにあの二人が一緒にいるところが見れる、と楽しみにしていたというのに、沙雨ちゃんは鬼道を、自ら突き放したのだという。
自嘲気味に泣きそうな顔して笑う鬼道に、豪炎寺は怒った。あたしは、何も出来なくてただただ呆然と、泣いてしまうだけだった。

遠くで円堂たちが後輩と久しぶりの再会を楽しんでいる声が聞こえる。あたしは一向に涙が止まらなくて、そんなあたしの隣で半田はずっと背中を叩いていてくれた。本当に泣きたいのは沙雨ちゃんで鬼道なのに、何であたしは泣いているのだろう。ばかみたいだ。


「…あたし、サッカー出来ないじゃない?」
突然のあたしの言葉に半田は驚いたみたいだ。「そう、だな」ぎこちなく返ってくる返事は、中学の頃とちっとも変わっていない。思わず頬が緩む。
「本当は、みんなとサッカー、したかった。だって見ているだけで、苦しくって。みんなと同じ傷が、あたしにも欲しくてたまらなかった。」
「…美桜、」
「だけど、沙雨ちゃんがね、言ってくれたの。俺は美桜さんが傷付くのはいやだって」
マネージャーも、一緒に闘っているのに変わりはない。いつしか沙雨ちゃんが言ってくれた言葉を繰り返すと、あの日と同じように胸が熱くなった。半田も隣で安心したように笑ってくれた。

「…何か松風にいいところもってかれたな、俺」
「な、何それ」
「はは、冗談。だけど松風、らしいな。」
「…うん。多分あたし、その言葉にすごい、救われた。」

そう、あんなに人を思ってくれる優しい子なんだ。その分自分をないがしろにして、自分ばかり傷付いて。「沙雨ちゃんが傷付いたら、辛い人がいるのに、」鬼道のあの辛そうな表情が浮かんでは、また涙が出てきた。だって、あたしには見えたの。あの二人を強く結ぶ運命の線が、くっきりと浮かんでいた。どんなにぶつかってもきっと結ばれると、信じて疑わなかった。
二人がお互いを一番に必要としているのは手に取るようにして分かった。見てきたんだ。どんな場面にいたって、二人からはお互いを求める悲鳴みたいなものが聞こえた。今だって、見えるのに。どうして、神さま。二人の味方をしていたんじゃなかったのですか。


「…好きだから、縛られたくないなんて、そんなの」
「…俺たちは、まだ幼い。」
何が正しくて、何が間違っているかなんて、知る由もなかった。ただ今を生きることに精一杯で、この決断だって、きっと二人の出した今出来る限りのものだ。
だけどあたしは愚かだから、どうしても後悔してしまう。もしあの時、もし二人が、もしも、ありもしない”もしも”を浮かべては涙が出てくる。あんなにお互いを一番に好きなのに、そのこと自体が彼らを縛っているだなんて、そんなの残酷すぎる。

「だけ、ど、二人は必死に前を見ようとするの。泣きたいはず、なのに必死に、こらえて、」
「…うん。」
「…だから、二人のぶんも、あたしが泣くから…」
弱音を吐こうとしない不器用すぎる二人のぶんも、あたしは祈るのだ。半田が、「美桜」あたしの名前を呼んで抱き寄せた。あたし達がこうして出来ることを誰よりも望んでいるのに、彼らにはできない。それを想うと余計泣けてきた。
ばかみたいで、どうしようもないけれども、それでもあの二人の寄り添う姿は酷く幼く痛々しく、それでいてとびきり美しいのだ。あたしには未だに、二人を繋ぐ糸が見えてしまって仕方ないから。



神さま、いつだってあなたは一番叶えてほしい望みを叶えてくれなかった。




▼inzm きどさう はんみお

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