「葉瑠くんって、よく分からない。」
目の前でポツリ小さく泣きそうな声を漏らした女子は、誰だったか先日俺に言い寄ってきた人だったと思う。名前は忘れてしまった、というか最初から覚えてもいなかった。
分からない?よく言われることだ。寧ろ理解される方が怖いと思った。俺自身すら自分が何がしたいかなんて分かっちゃいないからだ。理解されてたまるかというハナシ。


全く分からない。フラリと校舎をふらつくと、先日サッカー部で見かけた人がいた。スラリ長い手足に、圧倒的に周りから浮き出るようにして見えるその人は、名前は知らないけれども俺の記憶にしっかりと刻まれていた。何気なく近付くと、振り向く。何だか妙に心地よいような、だけども危うさを感じさせる匂いがふわりと鼻孔をくすぐる。彼女のもたらすものだと気付くのには時間はかからなかった。

「…こんにちは、綺麗なお姉さん。」
顔を覗かせれば、「あら、調子いいのね。」彼女は微笑んだ。普段通りであれば女子はすぐに顔を赤らめたりするというのに彼女には一切そのような仕草が見られない。ただただ美しくあるのみ、だ。不意に吸い込まれそうな感覚に陥る。彼女は、「あなた、確かサッカー部に来てた、わよね」とまた微笑んだ。

「転校してきたばかりで。サッカー部に入ろうかと。」
「あらそう。」
「…覚えてもらえるなんて光栄だな。」ふと彼女の髪に触れれば、目を細めた。絹のように指に絡む。「こんな綺麗な顔、忘れるわけないわ。」「俺も、あなたみたいな人、タイプです。」
だけどもふと、彼女は俺の手を突き放した。表情はあくまでもあの、恐ろしい程に美しいそれだ。
「あなた、本心じゃないでしょう?」それは良くないわ。そう突き放す彼女に、驚きを隠せずにいた。こうして見抜かれたのはアメリカのあいつら以外では初めてのことであったからだ。特に女子なんて話し掛ければただ顔を赤らめたし、見抜かれることなんてまず有り得なかった。は、あ。思わず感嘆の息を漏らせば、全てを見透かしたかのように微笑む。

「…へえ。どうして分かったんですか。」
「あら?まあ、強いて言うなら勘、かしら」
勘、ねえ。自分自身でもよく分かっていない自分のことをこう他人に見透かされるのは中々気分の悪いものであろう、そう予想していたものの、不思議と彼女にこうして微笑まれるのは嫌な気はしない。寧ろ心地よいような気さえしてしまった。
だって。そう呟く彼女を見たら、初めて負けた気がした。「あなた、誰かに恋してる顔だわ。」


例えるであれば、閃光が弾いたようなそれだ。それこそある意味一種の恋に落ちる瞬間とも似ていた。
「私、あなたに名前いったかしら」
「…ヴィクトリア?」
「…何それ。」
先程の彼女の真似をして、「…勘?」と言えば笑った。それから、顔を近付けて言う。「六連昴、よ。」

「昴さん、俺、あなたのこと結構好きかも。」
そう告げれば目をきょとんとさせてから笑う。「私も、よ」そう笑う彼女は何だか先程のよりも無邪気で、遥かに美しかった。雷門サッカー部、か。面白いかもしれない。
ふと、彼女も恋をしているのだろうかと、ぼんやりと考えた。それはきっと、身も焦がすほどに果てしなく脆く、それでいて、とびきり美しいのだろう。





▼inzm 昴ちゃん(むう宅)、葉瑠
本当すみませんやらかしたまたリベンジしたい
昴ちゃんお借りしました!

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