「…あ、御本くん。」

そう呼び掛けると、ちょうどトレーニングを終えた御本くんはくるりと振り返った。普段黙っている俺がいきなり話しかけるのが珍しかったのだろう。キョロキョロと辺りを見回して、「え、俺?」と自分を指差す。それにこくりと頷くと、腑に落ちないような表情を浮かべながら駆け寄ってきた。


「あ、れ。どうした、葉瑠。何かあったか?」
「…前から思ってたんだけど。」
果たして言っても良いものだろうか。暫し御本くんを見て黙っていたら、御本くんは笑いかけて、俺の背中をバシバシと叩いた。「何か悩みでもあれば、何でも言ってくれよ、な!」そういえば前に美桜が御本くんは優しくてかっこいい、とか言っていたのを思い出す。確かにこうして笑いかけてくる彼は、嫌な感じ一つしない。キラキラ眩しい、誰もがもっと彼に笑っていてほしいと考えるようなそれだ。ー否、正しくは彼、ではないのだろうけれども。


「じゃあはっきり言うけど。なんで君、男のふりしてるの。」
俺がそう聞くと、目の前の御本くんは目を丸く開かせ、ドサリと自分のタオルを落とした。あれ、何でも言ってくれと言ったのは御本くんだというのに。先程の笑顔はみるみる凍り付いていき、青ざめている。ちょっと面白いかもしれない。

「…タオル、落としたよ。」
「なっ、おま、何で…!」
御本くん(御本さんと呼ぶべきだろうか)はパクパクと口を開き、俺からタオルをもぎ取った。何で、と聞かれても。最初から。そう告げると、御本くんは声にならない悲鳴をあげた。

「あれ?御本と葉瑠。何してるの?」
美桜が駆け寄っても、御本は顔面蒼白で何か必死に俺を睨む。言うな。俺の勘違いでなければ、御本はそう必死に口を動かしていた。

「…カバディの話。」
「は、あ?また葉瑠ったら変な話を…」

俺がはぐらかすと御本は少しだけほっとした表情を浮かべた。だけど挙動不審なのは相変わらずであり、美桜が「ごめんね、御本。葉瑠の変なのに付き合わせちゃって。」と話し掛けたのに対し、「い、いいいや!全然!?」などと明らかに不自然に返していた。こんな分かりやすくて、よく今まで周りに隠せていたものだ。

その時、遠くで「御本!」声のする方を見れば、豪炎寺くんだ。彼は御本くんを手招きしている。

御本くんは、暫く俺をじっと見つめていた。その表情には、焦り、だとか不安とかいったようなものが読み取れる。俺が言いふらすのかを心配しているのだろうか。よく分からなかったけれども、「…大丈夫だから。」と呟けば、ほっとしたように少しだけ表情が和らぐ。瞳の奥には、信念の意思がゆらゆらと燃えていた。


「…ごめ、葉瑠、美桜ちゃん。あとで、な!」
御本くんは、そう言い残して豪炎寺くんの元へ駆けていった。美桜は小さくなっていく背中に、「あたしも御本と話したかったのになあ。」と残念そうに声を漏らす。
あんなに慌ててまでも貫き通すもの、か。御本くんの、あの瞳の奥に感じ取られた彼女の意志は一体何だったのだろうか。

「珍しいね。葉瑠が誰かと話すの。」
御本が気に入ったとか?そう笑いかける美桜に、俺は小さく頷いた。
「…うん。気に入った。」
美桜は珍しかったらしく、大きく目を見開いてから、少し笑った。「あたしも御本に恋愛相談よくしてるんだー。」
御本悠、か。その名前を胸内になぞる。すると、もう一度彼女の瞳に燃えていた意志の炎が脳裏に浮かんだ。ゆらゆらと小さく光るそれは、力強い。面白いかもしれない。俺はもう一度、豪炎寺くんと一緒にいる彼女を見てから、少しだけ口角を緩めた。



▼inzm 悠ちゃん、葉瑠、美桜
律騎ちゃん、悠ちゃんお借りしました!

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