さて、どうしようか。
今日は２月１４日。いわゆるまあ、バレンタインというわけなんだけども、俺は一つ大きく溜息をついて肩を落とした。周りがバレンタインで浮かれている分、俺は余計惨めだ。
というのも、俺だけ間宮からチョコレートを貰っていないのだ。まずい、自分で考えてみて、余計へこんだ。
間宮はサッカー部の皆にどうもクッキーを配ったらしい。だけど、俺だけ 何故か貰っていないのだ。マックスも円堂も、一之瀬も皆貰ったというのに、俺だけ。
どうしてだろうか。もしかして忘れられている？いや、そういや影野だって貰っていたし、いや、俺ってまあ普通だけどあれ、もしかして影野より目立たないのか。
駄目だ、考えれば考えるほどにへこむ。俺って間宮に全然意識されていないのか。それがこんなにも大打撃を与えるものだとは。
だけども、いきなり「あれ、間宮俺にチョコくれないの？」とか言えない。言えるわけがない。円堂なら簡単に言ってのけるかもしれないけども、俺は円堂とは違う。自分の根性の無さに、また溜息を一つ吐いた。
そうこうしているうちにまあ一日は終わり、仕方がないから帰ることにした。たかがたった一つのチョコレートだ。それが、俺をこんなに悩ませるとは。自分でも正直驚きだ。
その時、ふと、名前を呼ばれた。「は、んだ。」震えて、今にも泣き出しそうなそれ。そうだ、間宮は俺の傍に居る時、いつだってそうだった。
だけど、俺はいつだって彼女の声を聞くことができる。だって、いつだって、傍に居たいと思っていたんだよ。たかが一つのチョコレート、だ。だけども、間宮のチョコレートだから、こんなにも気になってしまうんだよ。
「ま、間宮？」
「あ、の…。半田。あの、ね。」
間宮はもじもじと俯き、地面ばかりを見る。何だか間宮の緊張が移って、俺までぎこちなくなってしまう。
「うん、どうした？」聞けば、間宮は一つ、小さな包みを俺に差し出した。薄桃色の可愛らしいそれは、間宮の瞳に似ているなあとか馬鹿みたいなことをぼんやりと考えていた。
「…これ、バレンタイン。」
「…え。」
俺に？阿呆の如くそう聞けば、間宮は小さく頷いた。小さな声で、「は、半田に。」と呟く。
驚きながらも、恐る恐るそれを受け取った。不覚にも手が震えてしまって、俺は随分かっこ悪いなあ。
「…もらえないのかと、思ってた。」
「ご、ごめん。」
「いや…。間宮から貰えて、あの、すごく、うれしい。」
思わず本心を突いて出た言葉に、間宮の顔は真っ赤に染まる。だけどもそれから、照れ臭そうに笑った。つられて俺まで笑ってしまう。
「半田用に、甘く、したんだけど。」
「まじ、か。うん、甘いの、すき。」
そう言ったら、小さく笑った。「よかった。」
ついでに、間宮のことが好きだ、と。間宮のチョコレートだけがほしかった、と。そんなことを言えたら、どれだけ良かっただろうか。そう言えたら、本当は良かったんだけど。いつまでも臆病な俺は、間宮の隣にいるだけで精一杯だ。
やっぱり、間宮には笑っててほしい。どうか、いつまでも笑っていて。出来ればそれが、俺の隣であるといい、とか馬鹿みたいなことを祈ってしまったのは、バレンタインの見せた幻のせいだと思う。バレンタインの神様に感謝、だ。もしも、もしも俺が間宮を好きだと言えたのなら、間宮は笑ってくれるだろうか。今だけは少しだけ自惚れさせてほしい。