夕方五時。地方密着型ニュースがテレビで流れる時間帯だ。凶悪な事件や悲惨な事故のニュースをものものしく紹介した後、駅前に新しくできた店のグルメリポート。それから地域のほのぼのエピソードの紹介に移る。

『このたび、動物園でかわいいハイエナの赤ちゃんが二頭生まれました!』

 カメラがアップになり、小さくてふわふわの生き物を映し出す。黒い毛と灰色の毛におおわれた、犬に似たハイエナの赤ん坊が、よちよちと檻の中を歩いていた。その愛くるしい姿。庇護を必要とする幼生の動物に、スタジオから歓声があがる。
 その赤ん坊の乱れた毛並みを母親が舐める。その後ろで父親が転びかけたもう一匹を支える。仲睦まじいハイエナの家族だった。

『日本の動物園では大変珍しいシマハイエナという種類で、国内では片手で数えるほどしか飼育されていないそうです。しかしこのハイエナの赤ちゃんたちのお父さんにはすごいエピソードがあるそうですよ。飼育員さんに話を伺ってみましょう』

 カメラが切り替わって、壮年の男性飼育員が映し出される。

『お父さんハイエナはシオン君というのですが、アフリカのケニアで密漁されて日本に輸出されたところを保護されて当園にやってきました。それからリッカちゃんという少し年上の子と一緒に暮らして家族になる予定だったのですが……このリッカちゃんが実はオスだったんですよ』

 どよめくスタジオ。飼育員の男性とハイエナが交互に映される。

『えーっ、それはびっくり! 男の子だって分からなかったんでしょうか?』
『それがですね、ハイエナの性器は雌雄同じ形で……外側からでは大変区別がつきづらいんですね。専門家でも間違えるほどです。リッカちゃんの体調が崩れたので大学病院で検査した時、X線を使ってようやく性別が判明しました』
『数年間、オス同士で暮らしていたんですね……』
『でも、ものすごく仲良しだったんですよ。リッカちゃんがいなくなった時も体調を崩してしまって大変でした。その後、ユズちゃんという子が他県の動物園からお嫁に来てくれて……二年ほど一緒に暮らして、ようやくこの冬、赤ちゃんに恵まれました!』

 カメラが再び檻の中を映し出す。ころころと転がる二匹のハイエナの赤ちゃん。それを見守る母親ハイエナ。それから、シオン。黒いたてがみが冬の日差しでベルベットのように光った。


 シオンは檻ごしに空を見上げた。
 灰色の空から羽毛のような白い雪が、あとからあとから降ってくる。物言わぬ獣の真っ黒い瞳が、それをいつまでもずっと、見つめ続けていた。



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