おでん様の作品「ご主人様と犬」の二次創作です。本編およびpixivはこちら
方言っ子さん(広島弁)・えろ下着・立ちバック・乳首責め・コンドームの描写があります。方言は作者様にご指導いただきました。


 犬のマスコットがついた鍵が、アパートの一室のドアに挿されて回された。山岡拓哉がドアを開けてクラスメイトの吉田奏に入るように促す。奏の肩にかかるくらい長い黒髪が後ろから吹く風で揺れ、黒縁の眼鏡が指で押し上げられる。一呼吸おいて、満面の笑みで奏は挨拶をした。

「こんにちはー!」
「ちょ、声でかいって。誰もいないから挨拶しなくてもいいよ……ほら、入れ」
「お邪魔しますワン!」

 この吉田奏。整った顔立ちの美形だが、中身はとんでもない奴だ。
 拓哉は今までの事を思い返す。いじめられっ子だった自分を変えたくて、引っ越して金髪に染めてピアスを開けた。拓哉は高校デビューでナメられないために、大人しそうな奴に目を付ける。長い髪を顔に垂らした暗そうな猫背の眼鏡。しかし話すと思いのほか気が強そうな眼鏡に物怖じして、とっさに出た一言。
「お前、今日から俺の犬な」
 何も考えずに言ったのに、そこから奏は忠実に拓哉の犬としてふるまうようになってしまった。一挙一動を褒め、影のように付き従い、命令を何でも聞く。根っからの支配体質というわけでもない普通の高校生にはちょっと荷が重い。ご主人様と犬という関係だが、何だかんだで二人は普通の友人……いや、それ以上の何かに発展していた。

 今の拓哉と奏は、定期的に奏の兄の所有しているAVを一緒に鑑賞しては、あんなことやこんなことをする関係である。

 でも、恋人同士ではない。友人でもない。セフレというには奏からの拓哉に対する愛が重すぎる。一番しっくりくるのが、ご主人様と犬。でも犬とはえっちな事なんかしない。じゃあ何?
 拓哉は奏との関係に名前をつけることができなかった。だけど、気が付けば流されて気持ちのいいことをしてしまう。
 今日も、するのかな。拓哉はお茶を入れながら頬を染める。
 そもそも自分の気持ちもよく分からない。でも、この気持ちに名前をつけて関係をはっきりさせたら、今のままではいられない気がした。
 お茶を持ってきて、ソファに座る。隣にいる奏をちらりと見た。鞄の中からDVDを取り出している……が、意外とカバンの中が乱雑なのでなかなか見つからない。
 と、昨日返ってきたばかりのテストが出てきた。拓哉は何となく用紙を広げて見た。

「お、おい、これヤバいんじゃないか? 二十八点って……」
「適当にシャーペンころころしたらいい点とれました」
「いい点って赤点だろ、これ……お前、留年するぞ」

 あまりの衝撃に、AVの事がどうでもよくなってしまった。この奏という男は眼鏡で真面目そうな顔をして、勉強が嫌いだ。ノートは基本真っ白。たまに落書き。提出物はマイペースに出す。先生からはよく呼び出されている。

「え、心配してくれるんですか?」
「当たり前だよ……なあ、せめて提出物はきちんと出して宿題しよう?」

 最初はあまりにも柄が悪い恰好をしているため、拓哉は教師からマークされていた。しかし根が真面目なので、宿題も提出物もしっかり出して成績もいい。意外と係や先生の手伝いもきちんとするので、外見以外は優等生だと思われている。
 奏の頬が真っ赤に染まり、おさえきれない笑みが浮かぶ。拓哉くんが、俺の事を心配してくれている……! 何も言わないけれど顔にそう書いてあるようだった。拓哉はそんなの慣れっこなので軽く流してテーブルに教科書を広げた。

「えっちなビデオを見ている場合じゃないな、今日は勉強会! テストの間違えたところを見直して復習しよう」
「いやです。えっちな事します」
「お前なぁ……そうだ、次のテストでいい点取ったら何でもしてやるから」

「……なんでも?」

 口がすべってしまった。とっさに拓哉は口を押さえて奏を見る。眼鏡の奥の瞳があやしげに光った。今のなし、そんな訂正はできなさそうだった。

「全教科八十点以上とったら、何でも好きな事していいよ……」

 乗りかかった舟。拓哉は真っ赤な顔でうつむいて、小さな声で言った。どうせろくでもないことをさせられる。そんなの分かっているのに。心臓の音だけがやたらとうるさく聞こえる。
 顔を上げた。目が合った。その瞬間、ソファに強引に押し倒された。
 制服のシャツの前が性急に開けられて、綺麗に切られた爪が服の隙間に潜り込む。長い黒髪が拓哉の顔にかかる。
 耳元で囁かれた声は、いつもの敬語じゃない。少し低めの声、土地の言葉。



「ちゃんと約束守ってね、たくやくん……俺、ちゃーんとえぇ子で待っとるけぇね」




 十一月。冷たい風が窓の隙間から室内に入ってきて頬をくすぐる。冬至に少しずつ近づいていくにつれて淡くなる秋の日差しが、夕方の教室に射しこんで影を作る。
 今日、十月末に行われた中間テストの答案が全て返された。奏は自信満々に拓哉に答案を見せる。拓哉はげんなりとしていた。結果は見なくても分かる。顔をあげると案の定だ。

「……お前、やればできるじゃん」
「犬は褒められたい生き物なのでもっとお願いします。それより約束の事、覚えてます?」
「…………」

 拓哉は何も言わなかった。プイと顔をそらして、小さくうなずく。もちろん奏がそれを見逃すはずもない。ぱっと華やかな笑みを浮かべて、鞄から小さな紙袋を出して机の上に置いた。


「明日一日……この紙袋の中のものを、制服の下に着てください。あと、学校が終わってから、えっちなビデオの鑑賞会がしたいです」


 何でもする。勢いで言ってしまったからどんなとんでもないことを言われるのかと思いきや、特にいつもと変わらないような事だった。一つ気になるのが紙袋の中身。何が入っているのだろう。でも制服の下に着れるようなものだから、そんなに変なものでもなさそうだ……拓哉は疑いの眼差しで奏を見ながら、紙袋に手を伸ばした。

「中身は家で見て下さい」
「何だよ、気になるじゃん」

 中身が見たい。しかし奏の無言の圧力に負けて、拓哉はしぶしぶと紙袋を見ることなく鞄の中にしまった。それが昨日の話。



 家に帰って中身を見て……拓哉は心の底から後悔しつつも、約束なのできちんと制服の下にそれを着て、一日を過ごした。そして放課後になり、拓哉の家で鑑賞会が開かれることになった。
 いつも通りに誰もいない部屋に奏を通し、お茶でも出そう……とする前に、拓哉は頬を膨らませて奏に食ってかかる。

「おい、お前ふざけるなよ!? 何だよこの服!」
「あ、ちゃんと着てくれたんですね……見せて下さい」

 奏はそう言って、キッチンに立つ拓哉の後ろから回り込んで、胸元に手を忍ばせる。さわさわと無い胸を揉み、首元に熱い息を吹きかける。拓哉は力が抜けて立っていられなくなり、キッチンのシンクに手をついて身体を支える。

「乳首、ここですかー?」

 シャツの上から両方の手で乳首をつまむ。親指と人差し指の爪を立てて、ぎゅ、ぎゅ、と強く。それからかりかりとシールを剥がすようにして、ひっかいた。拓哉の身体が震え、無意識に腰が後ろに立つ奏に押しつけられる。声を出さないように、ぎゅ、と唇を噛む。

「ちゃんとプレゼントしたやつ着てくれたから……一発で分かりますね」

 奏は薄い笑みを浮かべて制服のシャツのボタンを外した。前の合わせが広がって、胸元があらわになる。それは女性もののビキニのような下着だった。細い肩ひも、胸を覆う黒の三角形の布地にはレースと小さなリボンが付いていた。しかしその三角形は大きく切れ込みが入っていてほとんど布がなく、乳首が丸出し。乳首を強調するためだけにつけられたトップレスの下着だ。
 ふーっ、ふーっと荒い息を吐きながら、拓哉は振り返って奏を睨みつける。でもとろけた瞳で、真っ赤な顔で睨まれても全然怖くなかった。むしろ愛らしくて……奏はぞくぞくとする。

「お、お前が着ろっていうから……! こんなもの着せて……この変態……!」
「……ははっ、サイコー……たくやくん、こんな恥ずかしいもん付けて、一日過ごしたんじゃねぇ……どっちが変態なん?」

 奏の敬語が崩れて、方言が出る。長く白い指が、拓哉の素肌をまさぐって、下着で囲われた乳首をいじる。ぐり、ぐり、とスイッチを切り替えるみたいに強く押す。

「あっ……あ、あん、だめ、だめだって!」 
「ここが好きなん? 女の子みたいで可愛い」
「やだ、やだ! そんなのじゃないぃ……!」

 乳首をいじる奏の指から逃れるため、拓哉の上半身がキッチンのシンクにぺたりと付けられる。腰を突き出して無意識のうちに誘うように揺れる下半身。乳首をいじりながら制服のベルトを緩めて下着の布越しに性器を触ると、びしょびしょに濡れていた。ズボンを下ろして足を引き抜いて、制服の白いシャツ一枚にえっちな下着だけの姿にしてしまう。

 奏が拓哉に渡した下着は上下で同じデザインのセット。前から見ると、小さなリボンとレースが付いた小さな布地の清楚なパンツだった。サイドは紐で結ぶタイプ。しかし、後ろは布が申し訳程度しかないTバックタイプで、谷間に細い紐と少ない布地が食い込んでいやらしくお尻の肉を強調している。
 もちろん、こんな小さなパンツでは性器が隠せるはずもない。乳首をいじられただけで膨らんでだらだらと先走りを流す性器が、元気いっぱいに立ち上がっていた。

「ここも触ってあげんとねぇ」
「やっ、やだぁ……あっ、あっ、あん……だめ、だめ、だめっ!」

 奏が右手の人差し指と親指で輪っかを作って、拓哉の性器を強めにしごく。根元から先端の段差までを上下に動かされると、拓哉は声が止まらない。輪っかが段差を越えて、先端のピンク色の所をこしゅこしゅと優しく撫でる。くぱ、と大きく口を開いた尿道から、透明のおつゆがあとからあとから溢れて奏の指を濡らす。

「たくやくん、ここ気持ちええ? 敏感なところ……先っぽいじられたらすぐイッちゃうもんね」
「そ、そんなんじゃないぃ……あっ、ああっ! だめ、でるっ、でちゃうぅ」

 ステンレスのシンクに居眠りをするときみたいにうつ伏せになって上半身を預け、頬と乳首を一生懸命こすりつける。腰を大きく突き出して、真っ白なお尻をおねだりするみたいに振る。奏はぞくぞくとした。普段はツンツンとしているたくやくんの、こんな姿が見られるのは俺だけ……そう思うとズボンの中で性器がはちきれそうに膨らむ。我慢できなくて拓哉の性器から手を離す。

「あっあ、あ……? な、なんでぇ……」

 ポケットの中から、念のため入れておいた個包装のローション二袋とコンドームを取り出す。ローションを開けて指に出して、拓哉のお尻の谷間の慎ましやかな襞に塗る。少し冷たいローションの感覚に身を竦めながらも、ぐちゅぐちゅといじられるにつれて次第においしそうに奏の指をしゃぶりだす襞。静かな部屋に、じゅぷっ、じゅぷ、ぐちゅと響く水音。

「あっ、あああっ、あ……ぐちゅぐちゅって音するの、は、はずかしいっ……」
「恥ずかしいね、でもたくやくんがえっちだからいけんのんよ」

 早く、早くと言わんばかりに押し当てられる、柔らかな拓哉のお尻。本人に全く自覚はないが、まるで誘っているようだった。早く入れて、かき回してほしい。そんなおねだりだ。
 奏は逸る気持ちを抑えて、コンドームの封を切った。ポリウレタンで出来たそれの裏表を確認して、性器の先端に乗せる。精液がたまるところをつまんで空気を抜きながら、根元までしっかり巻き下ろしてはめる。ローションを追加してつけて、ちゅ、と拓哉のお尻の谷間のひだひだに性器でキスをした。柔らかな粘膜がちゅ、と音を立てる。

「たくやくん……いれるよ」

 拓哉は何も言わなかった。ただ、うつむいて、小さくうなずいた。それを確認して、そっと割り開くようにして挿入する。一ミリよりさらに薄い膜に包まれた性器に、ぬるぬるの襞が吸いつく。柔らかく温かい肉の筒が、きゅんきゅんと締めつけて奥へ奥へと誘う。ひどいことはしたくないのに、気持ち良すぎて腰が止まらない。気が付けば、どちゅ、どちゅ、と乱暴に前立腺を突いていた。

「あっ、あっ、あああああっ、そこ、変……なんかむずむずするぅ……」
「ここ、いつも慣らしとったからだいぶ柔らかくなってきたわ。たくやくんはここを優しく撫でられて……それからとんとんってつつかれるのが大好きなんよね」
「ああっ、あん……だ、だって……きもちいいからぁ……あああ!」

 うつぶせになっているので顔はよく見えないが、耳が真っ赤。チラ、と顔をのぞきこむと困ったような顔をして、よだれを垂らしていた。
 可愛い。耳元でそう囁いたら、体内の襞がきゅんと震えて性器が締め付けられた。でも、拓哉は何も言わない。奏はそれを少しだけ寂しく思うけれど、仕方がない。そういう関係なのだ。

「あっ、あんっ、あん……そこっ、すごい……!」

 腰をがっしりと掴んで奥まで突くと、拓哉が甘い声を上げる。ばちゅ、ばちゅ、とお尻の肉と太ももがぶつかる音がキッチンに響いた。
 コンドーム越しでこんなに気持ちいいんだから、ナマでしたらもっと気持ちいいだろうな……と奏は一瞬考えた。しかし人の家のキッチンを汚してはいけないし、何より拓哉の身体も心配だった。でも、本当はナマがいい。ナカにたっぷり射精したい。

 だって、犬は遊んでもらうのが好き。楽しい事が好き。気持ちのいい事が好き…………ご主人様のことが、大好き。

 たまらなくなって、拓哉の背中にそっと頬をこすりつけた。と、奏の服の裾がくいくいと引っ張られる。真っ赤な頬をステンレスにこすりつけて、小さな声で拓哉は言った。

「…………あの、前からしたい…………」
「あ、この体勢きついかねぇ? じゃあソファまで戻ってから……」
「ここでいい……」

 体内の襞は名残惜しそうに締めつけてくるけれど、お願いだから仕方がない。奏はそっと性器を抜いた。とろぉ、とローションが中から溢れて垂れる。拓哉がぺたりと床に座り込む。そっと腰を支えて、キッチンマットに横たえる。交換したばかりなのだろう、ごみがついていない綺麗でふわふわの柔らかいマットだった。
 拓哉が目を閉じて、そっと上を向いていた。奏は思わずそのつんと尖った唇にキスをしようとして……やめた。りんごみたいな右側のほっぺを、ぺろりと舐める。ちゅ、と子どもみたいなキスをした。柔らかくて温かい頬に、冷たい眼鏡のレンズが当たる。なぜだか胸がいっぱいになった。

「じゃあ、もう一回入れるけぇ……」
「ま、まって…………」

 布地が少なくて手触りのいい下着に性器をこすりつけると、拓哉からストップが入った。奏が不思議に思いながらも身体を起こすと、しりもちをつくみたいにして座った拓哉の手が性器に伸びてきて、ぎこちない手つきでコンドームが外された。先走りの汁が少しだけ入った温かいゴムのかたまり。拓哉がそっと奏の両手を握って渡した。
 奏は、一瞬頭が真っ白になった。これは、この行動の意味する所は……分かったとき、奏は拓哉を強く抱きしめていた。
 ……それは魔法の言葉だ。言ってしまったら、もうこんな事ができなくなるかもしれない。それでも何回も言いたくなる不思議な言葉。

「すき…………たくやくん、すき…………」

 拓哉はいつも返事をしない。分からないからだ。奏とは、初めてすることばっかりだ。友人同士がするものではない事は分かる。でも自分の気持ちは分からない。何でこんなことをしたのかも分からない。出来る事はただひとつ、奏の頭を撫でることだ。
 真っすぐでさらさらの黒髪を指で梳いたら、ほんのりと花の香りが漂う。耳元で、はっ、はっという荒い息遣いが聞こえる。
 本当に犬みたいだ。綺麗な黒い毛並みの大型犬。他者に対して心を許さなくて服従心が強い。でも主人に対して一途で甘えん坊で、独占欲が強い。
 ちゅ、と首元にキスされて、そっと性器をあてがわれる。とろとろにほぐれた所に、ぎゅ、と押し当てられて、ゆっくりゆっくり挿入される。

「んっ……あ、あっ、ああっ……!」
「すご……ゴム有りと全然違う……たくやくんのナカ、ぬるぬるってしとる……」
「は、恥ずかしいこと言うな! ……ん、んんんっ!」

 体内のひだひだが、性器に絡みつく。一番奥まで全部入れてから……抜き差しした。痛くないように最初はゆっくり。でも、我慢できなくなった。温かくて、柔らかくて、とろとろでぬるぬる。キッチンの床で、えっちな格好をした可愛い子をぐちゃぐちゃにしている。
 着用している方がよっぽどいやらしい、乳首も性器も丸見えの下着の隙間から指を入れて、いじる。乳首をつまむと、ナカが震える。そこをめちゃくちゃにかき回した。
 拓哉の両腕が奏の首に回され、日焼けしていない白い足が、腰に巻きつく。ぎゅ、としがみついて、無意識に腰を動かして、一生懸命に気持ちの良い事を求めていた。
 ぐちゅっ、ぐちゅ、ぬぷ、くちゅ、くちゅ、ぴちゃ……と、シンクの蛇口から水が漏れているような音がする。そんないやらしい音の隙間、拓哉は奏の耳元で呟いた。

「かなで」

 名前を呼ばれた。うわごとのように、何回も何回も呼ばれた。それだけで奏はたまらなくなる。もうすぐ夕方。キッチンの窓から差し込む西日が眩しくて、くらくらする。
 目を奪う陽の光が、拓哉の顔に影を作る。とろんととろけた瞳、少しだけ開いた口、困ったみたいに寄せられた眉毛。可愛かった。もう我慢できなくて、キスをした。
 そっと触れた唇は、乾燥して少しだけかさついていた。それを舌で舐める。歯茎をなぞる。舌と舌を絡めて、下唇を食む。ちゅ、ちゅ、と触れ合う音がした。ナカを突きながら、頬に触れて真っすぐに見つめて言う。

「好き」

 たくやくんの全部が、俺のものだったらいいのに。他の奴に話したり、笑いかけたりしないでほしい。ずっと俺の事だけ見ててほしいし、四六時中一緒にいてほしい。好き、好き、大好き。この気持ちが少しだけでもいいから、伝わるといいのに。
 ぎゅ、と抱きしめた。肉体的な気持ち良さ、苦しいくらいに痛む胸の切なさ。温かくて柔らかな身体。

「ね、もう出してえぇですか……?」
「あっ、あん……あ、ああっあ、うん……だしてっ、だしてぇ」

 すがりつくように抱きついてきて、可愛い事を言われたらさすがにもう我慢も限界だ。最初の挿入の優しさが嘘みたいに、乱暴に、強引に、強く突く。拓哉の性器をしごきながら、乳首をいじりながら突く。

「あっ、あっ、あ、あん……でる、でちゃう!」
「いっぱい出してえぇよ……俺も出る」 

 拓哉が射精して奏の手を汚す。生温かい液体がとろりと垂れる。たまらなくなって、一番奥にこすりつけて、射精した。
 それは生まれて初めてした自慰に匹敵する気持ち良さだった。めちゃくちゃに興奮して、股間ががっちがちになって……夢中でこすっているうちに、尋常ではない快感と共に止められない何かがあふれ出してくる、そんな初めての射精並みに気持ちが良かった。
 名残惜しい。本当はもっとしたい気持ちを抑えて、そっと性器を抜いた。白いクリーム状の精液があふれ出してくる。あとからあとから、出てくる。射精して性欲が減退しているはずなのに、流れてくる精液を亀頭ですくってもう一度突っ込みたい気持ちになる。でも、奏は我慢した。
 我慢して、我慢して……ぎゅ、と拓哉を抱きしめた。触れ合ったところから伝わってくる心臓の音、真っ赤な頬、とろけた顔……ぽかんと開いた小さなおくち。たまらなくなって、顎に指をかけてキスをしようとして……ぱっと身体を離した。こんなことしたら、だめ。本能に理性でブレーキをかけた。 


「……気持ち良かった……ですか?」
「…………うん」
「それなら良かった。じゃあ、身体を綺麗にしましょうね……」


 鞄からウェットティッシュを持ってきて、洗面所からタオルとティッシュをお借りして、奏は拓哉の身体を拭いた。下着を脱がせてから……大切なものを磨くみたいに。優しく、触れたら壊れる硝子を扱うみたいに。どこもかしこもぴかぴかにされる。まるで宝物か何かになってしまったみたいだ。
 拓哉は不思議だった。どうしてこんな事するんだろう。どうしてここまでしてくれるんだろう。全然分からない。

「……なあ、俺たちの関係って、何なんだろう……」

 汚れたところを拭かれて、服を着せられて、綺麗に整えられた。キッチンの床に座り込んで、窓の外を見る。オレンジ色の夕日が、外の葉っぱの隙間から光っていた。きらきらと光るガラスの向こう、青紫色と朱色が絵の具みたいに混ぜられる時間帯。
 制服を着た奏の顔は、逆光でよく見えない。静かな部屋に、奏の声が小さく響いた。



「…………ご主人様と、犬…………ですよ」







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