引田ロング様の作品「俺があんたに負けるわけがない!」の二次創作です。本編はこちら、設定などはこちらです。
喫煙描写・ハメ撮り・口内開発・脇責め・コンドームの描写・ちんぐり返し・乳首責めなどがあります。




 霧雨が煙るように降る夜だった。
 かすむ街の明かりを窓ガラス越しに見ながら、秋月勇人(あきづきはやと)は煙草を薄い唇にくわえる。長くそろったまつ毛を伏せて、愛用のライターで火をつけた。ワインレッドの前髪がふわりと揺れる。

 大きく息を吸い込むと、肺に酸素と一緒に送り込まれてくるヴァージニア・エス。気まぐれで買ったいつもと違う銘柄は、ほのかな苦みとすっきりとしたメンソール。
 息を吐きだした。ツンと鼻の奥に突き刺さる爽やかなハッカの香り。細く長く伸びる煙が、くもった窓ガラスに伸びてたちまちに消えていく。外は雨だというのに、煌々と光るネオンはまるで満天の星空のよう。
 ぼうっと外を見ていると、背後のドアが開いた。


「お風呂ありがとう。シャンプー勝手に借りたけど大丈夫だった?」


 水滴がしたたるミルクティーベージュの髪の毛。それをタオルで拭きながら部屋に入ってきた、女性と見紛うばかりの綺麗な顔をした男性。たれ目が優し気。実際、性格は柔和で穏やかである。彼の名は花澤薫。勇人とは最近ひょんなことから知り合ったばかりだ。

 一緒に遊びに行ったりご飯を食べる。たまにセックスをする。そんな関係。今日も一緒に服を買いに行って、ご飯を食べて、お酒を飲んで……飲み直しのために勇人の自宅に来た。
 夜の闇。シャワーのように降る霧雨は、気づかぬうちに二人の身体を濡らした。家に急いで入って、タオルで身体を拭いてお風呂に二人で入ってみた。しかし特に何かが起こる事もなく、髪の毛や身体を洗ってバスタブに浸かって……落ち着かない勇人は先にお風呂から上がって煙草を吸っていた。

「うん、好きなの使って」
「シャンプー五本もあったから迷ったよ。ホストって大変だね」
「あー、お客さんがプレゼントでくれたりもするから……日替わりで好きなの使ってる」

 ふんわりと笑う三歳年上の友人。いや、友人なんだろうか。勇人は心の中で自問自答をする。遊ぶ。ご飯を食べる。お酒を飲んでプライベートな話をする。
 恋人ではない。付き合っていない。でも、身体の関係がある。おそらく一番近いのがセフレだ。勇人には男女問わずセフレがたくさんいて、些細な事で会ったり付き合いをやめたりする。
 でも、その人たちとは何かが違う気がする。それが何なのかはよく分からない。セフレというよりはもっと友達に近い何か。しかし純粋な友達ではない。勇人は薫との関係にうまく名前を付けられないままでいた。

「黄色のボトルに入ったやつがいい匂いだったからそれを借りたよ」
「あ、それ俺もお気に入りのやつ」

 突然の泊りだったので着替えがない。適当にルームウェアを貸した。濃紺のスウェットの上下。身長差は十センチほどあるがサイズはそこまで変わらない。でも、少しだけ袖が長い。
 薫は椅子に座ってドライヤーで髪の毛を乾かした。ふわりと香色の髪の毛が揺れて、勇人と同じシャンプーの匂いが部屋に漂う。さっき勇人が吸っていた煙草の香りをかき消すようにして混ざり合う、人工的なはちみつの香り。


「同じ匂いがする」


 髪の毛を乾かし終わった薫が、微笑みながらそう言った。整った人形のような顔が、笑うと少しだけ子どものように見える。いたずらっ子のような顔をして、薫がたわむれに抱きついてくる。

「なんだよー」
「シャンプー五本もあったのに同じやつ選んじゃったね」

 からかうような口調。勇人は頬を膨らませて、煙草を灰皿に押し込んで消した。ぷい、と顔をそらして、ベッドに横になった。

「お気に入り使っただけだし!」
「シャンプー同じなのって、何かいいね。一緒に住んでるみたい」
「……ふん」

 勇人に付き合って薫もベッドに転がって後ろから抱きついた。勇人は口をとがらせて振り払うようにして寝返りをうつ。耳まで真っ赤。ホストをしていてセフレもたくさんいて遊んでいるようでいて、意外と素直な所もあるのだ。

「可愛い……ねえ、写真撮っていい?」
「…………」
「返事がないから撮っちゃうぞ」

 薫は面白半分に写真を撮ってみた。リスのように頬をふくらませてふてくされている勇人が写っていた。

「な、何撮ってるんだよ!」
「ふふ、可愛いね……」

 ふわふわの天然パーマがかかったミルクティー色の髪の毛。その隙間から見える整った優しげな顔立ち。穏やかな女性的な顔に、どこか野性味を帯びた雄の表情が浮かぶ。それを勇人は至近距離で見てしまって、慌てて顔をそらした。


「気持ちいい事したら、もっと可愛い顔が撮れるかなぁ?」


 耳元に吹きかけられる吐息。そっと前開きのパジャマの合わせから薫の手が潜り込む。意外と荒々しい手つきでまさぐる。優しくなでる。指が蛇のようにのたくる。

「あ……」

 勇人の口から漏れた甘い声が、細く長く伸びる煙の中に紛れて消えた。
 


- ナノ -