閑話1




 
 
 
「うーん、うーん……」

「どうしたんだ雷蔵」



図書室で当番をしながら僕がうんうんと悩んでいたら、いつの間にか三郎がやって来た。



「三郎小声でね。えっと、甘味屋さんのことなんだけど……」



そう、僕は二ヶ所の甘味屋で迷っている。忍たまたちが一度は行ったことがある団子が美味しい馴染みの甘味屋か、最近開店したばかりの話題の甘味屋か……



「それなら新しい甘味屋へ行こう。この前みんなで団子を食いに行ったしな」

「うん、今度ね」

「え?」



僕はみんなと行きたくて悩んでいるんじゃない。初めて逢瀬のお誘いをするから悩んでるんだ。



「ちょ、え、ららららら雷蔵!おっおっ、逢瀬?!」

「三郎うるさい」



そんなに驚くことだろうか。まあ、三郎は何気に人気あるから女関係で困ることはないだろう。ただ、僕の顔だということが若干複雑だ。



今はあの先輩に夢中みたいだけど、僕はそこまで興味はない。何故か気になる気持ちもあるが、それよりも彼女のが断然気になる。



言葉だって、ろくに交わしたこともない。彼女と会えるのは、図書委員の当番の時だけ。



だから、次に会えるのはいつになるのか全くわからない。他の図書委員より多めに当番になるようにしているが、それでも会える確率は低い。



もし次に会えたら、勇気を出して逢瀬に誘うんだ。場所を考えるのは後でいいや、とりあえず誘おう。



『返却でお願いします』



もんもんと飛び交う思考を頭の隅に追いやり、その声の主を見る。



わ、どうしよう、彼女だ。何か言わなきゃ、えっと、いつもと違うことを、違うことって何だ。



「いつもありがとう」



………なんの捻りもなかった。



『?あ、はい』



………駄目だ、この表情は何の印象も与えれていない。



「くのたまに上級生っていたんだな」



三郎、それ本気で言ってるの?



「三郎、次失礼なこと言ったら顔の皮毟るよ」

「え」


 
隣で固まっている三郎は放っておいて、僕は彼女の姿を目で追う。



よし、彼女が借りる本を持って来たら誘おう。



「あ、不破と鉢屋!今日も仲良いね!」

「せっ、先輩!!」

「ちょっと二人とも静かに!」



ん? え、うそ。



騒がしくなったからか、彼女は本を借らずに図書室を出て行った。



あああああ、そんなあああ……



僕は、嬉しそうな三郎と楽しそうな先輩を、何ともいえない表情で見つめた。









* * *










この前、やっと本を借りに来た彼女と会うことが出来た。



丁度新刊が入ったばかりだったので、それを口実に話しかけると、いつもは表情豊かでない彼女がほんのりと嬉しそうな顔になった。



あれは反則だよ、可愛い過ぎる。



三郎達が知らなくて良かった。これはみんな好きになっちゃうよ。………って、やっぱり僕、彼女のこと好きなのかな。



迷い癖に恋、忍者の三病だけじゃなく三禁もか。いっそのこと忍者の三病も三禁を制覇した方が良いような気がしてきた。



結局あの日は、先生から用事を任されてすぐに能勢久作と代わって貰ったから誘えなかった。



何でこんなにうまくいかないんだろう。もうこれは、作為的な何かを感じるよ。



そんなある日、幸運が訪れた。



『返却でお願いします』



私服だ、どうしよう可愛い。



彼女にしては珍しく、返却日がギリギリだった。髪はお団子に結ってある、可愛い。



「今回はギリギリだね」



あ、ちょっと困ったような申し訳なさそうな顔してる。可愛い。



何か話題、話題、話題、



あ、そうだ。



「来週、新刊が入る予定だよ」



本のことしか話題がないなんて、ちょっとこれ悲しいな。



『……来週、か。ありがとうございます』



彼女は前のように嬉しそうな表情ではなく、どこか残念というような表情をしている。


 
もしかして、来週は用事があるのかもしれない。



ぺこりとお辞儀をして去って行く彼女。お辞儀の仕方すごく上品だったな、可愛い。



「…………あ、」



見とれてばかりで、誘うの忘れてた。











とりあえず可愛いかった。
(次、次に来たら誘う!)
(名前、呼んじゃおうかな…?)
(いろは、ちゃん……なんて)



 




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