脇役もたまには、ね?




 
 
 
『すいません、お待たせしました』

「あっ、気にしないで!僕が早めに着きすぎただけだから!」



待ち合わせの場所に着くと、すでに不破君が待っていました。



不破君を待たせないようにと早めに出たはずでしたが、どうやら不破君の方が一枚上手のようです。



「その、今日のいろはちゃん、すすすごく可愛」

『あの、不破君。その隈どうなさったんですか?』

「えっ?!!!」



おっと、台詞が被ってしまいました。



でも不破君の目の下には、以前はなかった隈がついている。もしかすると、別の用事があったのかもしれない。なんという事だ。脇役の私なんかと約束してしまったばかりに。



「こっ、これは、その、予習で……」

『予習?』

「あっ違っ、ららら来週試験があって!」



来週の試験の予習をするなんて、不破君は模範忍たまですね。それより、さっき何か言いかけていたような。



『不破君、先ほど何か言ってましたけど何でしょう?私が喋ったせいで遮ってしまったので』

「えっ!あ、なっ何でもないよ!」



少し困ったように笑う不破君の「じゃあ、行こうか」という言葉で、脇役人生で初の同級生とのお出かけが始まった。



まだ来たことのない町でしたので、不破君にあれやこれやと説明してもらいました。全部すらすらと答えてしまうなんて、不破君は素晴らしいですね。しかも、とてもわかりやすかったです。



それから町をのんびり散策したり、路上で旅芸人達の催し物を見たりと、いつもの休日とは比べものにならないくらいの楽しい時間を過ごしました。



不破君は、通行人にぶつかった私を受け止めてくれたり、話題を振って話し掛けてくれたりと、とてもな素敵な方でした。そして周りの女性陣の視線が痛いです。はい脇役風情がすいません。


 
「その簪綺麗だね。いろはちゃんは赤が好きなの?」

『これですか?特に赤が好きという訳ではないのですが、以前斉藤さんにいただいたので』



あまり綺麗な簪は持っていないので、斉藤さんがお世辞でも可愛いと言ってくれたのでつけてみました。はい脇役風情がすいません。



「……そっか。あ、ねぇいろはちゃん、あそこの店に行かない?」

『え?はい、かまいませんよ』



余程行きたかったのか、不破君は私の手を引き歩き出した。



『…………』



同級生とのお出かけは初めてで、そんな私は手を握られるのも初めてで、ちょっと照れくさかったのは私が脇役だからでなんでしょうね。









* * *









 
『すごく美味しいです』

「本当?!よかったぁ!」



休憩がてら、当初の目的である甘味屋にやって来ました。



お値段も手頃でメニューも豊富、さらには味も美味しいときました。不破君、あなたは何者ですか。少し完璧すぎではないでしょうか。



「あっ、あのね!僕、いろはちゃんに渡したい物があって」

『?』



不破君に渡された包みを開けてみると、淡い色の簪が包まれていた。



『あの、この簪は』

「えっと、その、僕からいろはちゃんに」

『私なんかがこんな高価な物を頂くなんて勿体ないです』

「えっと……えっとね、僕の方を付けてほしいかなー、なんて……」

『……では代わりといってはなんですが、ここは私が出します』



とはいえ、不破君の買った簪には到底及びませんが。



「そんな!いいよ!」

『ですが……』

「じゃ、じゃあ、代わりに、さ?敬語とか使わなくていいよ。僕たち同級生なんだし……」



そんな事でいいのでしょうか。



明らかに頂いた簪に見合わないのですが……



『はい、わかりま』

「ほら!それ!」



早速つっこまれてしまいました。



この喋り方は癖みたいなものですし、なかなか難しいですね。



「無理なら別にいいんだけど、できれば敬語じゃないと嬉しいなぁなんて……」



不破君の申し訳なさそうな表情に、胸の辺りが罪悪感に似たモヤっとした何かで心苦しい。



『……努力、します』



結局、私が厠に行っている間に不破君が支払いを済ませていました。



あ、はい、脇役風情がすいません。不破君にはちゃんと何かの形でお礼しますすいません。









* * *









 
甘味屋を出てしばらく歩いていると、桶がコロコロと転がって不破君の足にコツリと当たった。



不破君はその桶を拾うと、少し考えてから「多分あの民家だと思うから戻してくるね」と小走りで向かって行った。



わざわざ届けに行くなんて、不破君はとても優しい方ですね。そりゃくのたまに人気なわけですよ。



「おいお嬢ちゃん」



そんな事を考えていると、背後から悪い予感しかしない声が聞こえてきた。



しかし、振り返ると同時に予想通りの台詞を頂きました。



「ちっ、ハズレじゃねぇか!」

「でもお頭、意外と平凡な感じの女の方が高く売れたりするかもしれねぇですぜ!」

「何言ってんだ美人が良いに決まってんだろ」



まあ、そうでしょうね。



やはり安定の脇役でした。



一応忍具は持っていますがここは人通りが多いですし、さてどうしましょう。



「僕の連れに何かご用ですか」



颯爽と現れた不破君は、私を庇うように自分の後ろへと誘導する。



あ、はい脇役風情が女の子らしい扱いを受けてすいません。



「ああん?おい兄ちゃん、いくら安い値段しか売れそうにないお嬢ちゃんでも金は金だ。怪我したくなけりゃおとなしく渡しな!」

「痛い思いはしたくないだろ?」



あ、脇役でも売るつもりなんですね。安いことはわかっていましたよ勿論です。



「ほらわかったらサッサと……いだだだだっ!!」



さすが忍術学園の五年生。瞬く間に山賊のお頭の背後に回り込み、腕をひねり上げてしまいました。



「このクソガキ!!」



不破君に何かを言われた山賊のお頭は腕をひねり上げられたまま暴れるが、首筋にクナイを当てられた瞬間ピタリと動きが止まる。



そして、不破君はいつもよりも低い声で言い放った。



「次僕たちの前に現れたら、ただじゃおかないよ」

「っ!!くっそう!覚えてろ!!」



不破君が最初の方に何を言ったかは聞き取れませんでしたが、山賊達は慌てて逃げ出して行きました。



「いろはちゃん!!大丈夫?!」

『……あ、はい』


 
……なんといいますか。あの優しい不破君も、忍者なんだなと改めて感じました。



そして、男の人……なんだと。



『あの、助けてくれてありがとうございます。でも私は見ての通り脇役ですし、私なんかが理由で不破君が目立つようなことは避けた方が……』

「もし」



お互い忍の者ですし、と続く前に不破君が言葉を遮った。



「もし、いろはちゃんが脇役だったとしてもね?僕の中では……いろはちゃんは主役だから……。だから、次もちゃんと助けに行くよ」

『……あ…ありがとう、ございます』



………主役、だなんて、初めて言われました。



不破君が気を遣ってお世辞を言ってくれているとはわかっていても、ちゃんと私という存在を認知してくれたような気がして、



胸のあたりが、あたたかい。



「……いろはちゃん」

『あ、はい、何でしょう』

「あの、ね、もし、もし良かったらなんだけど、僕のこと、名前で呼んで欲しいな、なんて……」

「駄目だよ」



急に視界が黒くなり不破君が見えなくなったと思ったら、目の前に大きな背中が現れた。



「え、ええっ!!?なんでタソガレドキの貴方がここに?!!」

「もう一度言うよ。駄目」

『雑渡さん会話になってません』



不破君の言うとおりですね、何故雑渡さんがここにいるのでしょう。



「いろはちゃんちょっと待っててね。この子とお話が終わったら一緒に帰ろうね」

『一人で帰りますのでお気遣いなく』

「いろはちゃんつれない」



いつもと変わらなく見えるが、再び不破君の方に顔を向けた雑渡さんはどこか不機嫌なオーラが出ている。



「不破君?だっけ?まず敬語無しっていうのは千歩譲って見逃してあげるけど名前呼びとか駄目だから。私だって名前呼びされたことないし駄目だから。というかね理由はどうあれいろはちゃんを一人にするなんて何考えてんの。バカなの?アホなの?」

「えっ、あ、その……」

「大体さあ、」



これは長くなりそうですね。


 
「ちょっ、組頭!この山賊達どうするんですか!」



雑渡さんの長話が始まりかけた時に、先ほどの山賊を縄で引きずりながら諸泉さんが現れた。



諸泉さんもいたんですね。



「え?そんなの決まってるでしょ。素っ裸にして町のド真ん中に放り出しなよ当たり前でしょ」

「かっ勘弁してくださいよ!」

「は?いろはちゃんを安物扱いしといて無事でいられるとでも思ってんの?」

「組頭、とりあえず素っ裸で亀甲縛りでいいですか?」

「「ヤメテェェェェェ!!?」」



不破君は苦笑いでその成り行きを見ている。






今なら、雑渡さん達には、気付かれないかもしれません。






おそらく、山賊達が終わればまたこちらに戻って来るだろう。



そうしたらきっと、そのまま不破君と別れてしまうでしょうね。



私は、少し緊張しながら不破君に近付いた。



そして雑渡さんと諸泉さんが山賊達と言い合っている隙に、不破君の袖をくいっと引っ張った。










誘ってくれてありがとう、
…………雷蔵君。
(えっ!!えっ、今っ!!)
(……雑渡さんには、内緒です)


 




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