閑話6




 
 
 
その日も、お土産の団子を片手に忍術学園に向かっていた。



忍術学園の最終兵器の事務員を軽く撒き、お目当ての医務室にお邪魔した時の事だった。



「あらら?」

『…………どうも』



保健委員の伊作君達はおらず、見たことない女の子が一人、救急箱の補充をしていた。



おかしいなー、あの男装の子は除いてくのたまには上級生がいないって情報だったんだけど。



「ねぇ君って転入生?」

『いえ、一年から在学しています』



あらー、何それ。もしかしてみんなから忘れられてる感じ?まぁ確かに平凡っていうか、特に目立つところはないというか。



しかし、逆をいえば逸材である。



存在感がないとは、忍にとっては好都合。さらに言えば、秀でた面がないとて、この教育レベルの高い忍術学園で生き残った実力があるという事だ。



「君、名前は?」

『申し訳ないですが、曲者の方に個人情報はお教えできません』

「私はタソガレドキ忍者隊の雑渡昆奈門だよ。君の名前は?」

『それでは失礼します』

「話も聞いてくれない」



これがいろはちゃんとの出会い。



私がいろはちゃんに夢中になるのは時間はかからなかったし、あの手この手でタソガレドキへの勧誘も成功した。



本当、いろはちゃんって可愛い。



別に容姿が一等麗しいって訳でもないけど、あの忍術学園で認知すらされてないのが不思議なくらい魅力的な子。



何故あの天女様や男装の子があんなにも好意を寄せられていたのかが、今でもわからない。



でもあの子達は、いわゆる爆弾のようなモノだ。



爆発寸前までは騒がれるが、爆発後は後処理さえ終われば忘れられていく。「そういえば、あんな爆弾があったなぁ……」と過去のモノになっていく。



その点は、影響力のあった子達だったのかもしれない。



あの天女様が消え、男装の子が留守になっている今。この忍術学園は、こんなにも“普通”だ。



本当、不思議だねぇ。









* * *









 
『組頭、城内の偵察が終わりました』

「ありがとー」



いろはちゃんをタソガレドキに引き抜いてから、さっそく新人研修の任務をやってもらってる時の事。



なんかもう、ね。



もう惚れ惚れだね。



さすが忍術学園、五年生の時点でこのレベルだなんて素晴らしいよ。あー、伊作君率いる保健委員の子達も是非うちに欲しいね。



って、そんな事よりも。



「ねぇいろはちゃん。ずっと気になってたんだけど、タソガレドキに来てから“組頭”って呼ぶじゃない?今までみたいに雑渡さんでいいんだよ?そりゃ組頭呼びもちょっと萌えるけど、私的には雑渡さんの方がいいかなー、あ、昆奈門さんにしよう。だって私達もう親密な仲だもんね?」

『仕事の上司ですし無理ですよ』



もういろはちゃんったら、お堅いのね。



「えー、昆奈門って呼んで」

『……わかりました、雑渡さん』

「昆奈門って呼んで」

『でも任務の時は、けじめとして組頭と呼ばせてもらいます。よろしいですか雑渡さん』

「話も聞いてくれない」



あの時はまだ冷たいいろはちゃんに免疫があまりなかったけど、今は大丈夫。だっていろはちゃんに冷たくされるのは、もはや快感になってきたから。多分もうちょっとで尊奈門も染まるよ。









* * *









 
早めの昼休憩で、ふといろはちゃんとの出会いを思い出していた。



今じゃいろはちゃんは、タソガレドキ忍者隊の人気者だ。



いろはちゃんって可愛いし、見てて癒されるし、みんな夢中になってる。あ、私親ばか?



でもそうだよねー、私といろはちゃんじゃ年齢的に無理だから、もう親でいいよね?寧ろ親の方がいいや。ちょっと本気で養子に取ろうかな?“雑渡いろは”とか良くない?父上呼びとか良くない?よし、次の休みにいろはちゃんとこのご両親にお話しに行こう。



『あ、雑渡さんお疲れ様です』



ズズッとお茶を飲んだと同時に、小袖姿のいろはちゃんがぺこりとお辞儀する。



「そっか、今日いろはちゃん休みかー、って………あれ?ちょっと待っていろはちゃんお化粧してない?いつもはしてないじゃん、え、何でそんな可愛い小袖着てるの?え、私その小袖見たことないけど」

『はい、少し人に会うので失礼のない程度に。小袖は先ほどくの一の先輩に頂きました』

「え、くの一?」



確かにくの一部隊もいろはちゃんのこと狙ってるよ?本人は自覚がないようだけど、あの狡猾なくの一部隊なんか虎視眈々と引き抜こうと狙ってるからね?ダメだよ私のいろはちゃんはあげないよ。ってそんな事は今はどうでもいい。それより問題はそこじゃない。



「いやいや違う違う。そこじゃなくて、え、何、誰、男?もしかして逢瀬?え、逢瀬なの?男?ねぇいろはちゃん、男?」

『それでは失礼しますね』

「話も聞いてくれない」


 
いつもは後頭部で一つに結わえている髪も今日は緩くセットされていて、今まで私がいろはちゃんに会った中で、ダントツで一番可愛い。



そんないろはちゃんを見送り、すぐに尊奈門を呼び寄せる。



途中から尊奈門の気配が近くにあったけど、こちらに来なかったという事は立ち聞きしていたのだろう。それなら話は早い。



「……何でしょう組頭」

「よし尊奈門、つけよう」

「………はい?」



キョトンとする尊奈門。何その顔。そんな顔尊奈門がやっても可愛くないよ。私はいろはちゃんにしてもらいたいよ。



「話は聞いてたでしょ?だから、尾行だよ尾行」

「何言ってるんですか!」

「いろはちゃんに男ができたらどうするの?」

「それは、いろはの自由だし、」



この期に及んで尊奈門は何を言ってんの。



「よく考えて尊奈門。いろはちゃんって自分のこと脇役とか言っちゃうでしょ?そこにつけ込む悪い虫に引っ掛かったらどうするの?いろはちゃん優しくされたらコロッと落ちちゃいそうじゃない?彼が嫉妬するみたいなのでとか言って距離置かれそうじゃない?だっていろはちゃん絶対一途だもん。悪い虫って気付かないまま一途に愛しちゃうよ?それは阻止しなきゃでしょ?」

「……………」



私の可愛い可愛いいろはちゃんを、どこの馬の骨かもわからない男なんかに渡さないよ。



「さあ尊奈門、つけるよ」

「勿論ですつけましょう」










(組頭、その包みは?)
(火縄銃と宝烙火矢)



 




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