名前知っていたんですね
「あ、いろはちゃんいらっしゃぁ〜い!」
『小松田さんこんにちは』
どうも、いろはです。
本日も忍術学園に雑渡さんを迎えに来ました。諸泉さんは塀を飛び越え土井先生と勝負しに行きました。私はいつものように正面から入りました。
「最近よく会うねぇ〜。なんかいろはちゃんが辞めたなんてまだ信じられないやぁ」
『そうですね。私もこんなに頻繁に来るとは思ってもみませんでした』
思ってもみませんでしたよ。雑渡さんがこんなにも頻繁に脱走して保健委員に会いに来るほどお熱だったなんて。
とりあえず諸泉さんが負けるのは毎度のことなので、そのまま医務室に直行ですね。ちょうどのタイミングになるんじゃないでしょうか。
「あ」
『あ』
おっと。
忍たまと遭遇してしまいました。
今までは脇役特権の奥義“何故か気付かれない”(小松田さん除く)を発動していたのに。
『こんにちは、お邪魔してます』
「えっ!えっ?その忍装束って……」
この反応は、私が忍術学園にいたということを覚えていたんですね。まさか小松田さんと食堂のおばちゃん以外で、そんな方がいただなんて予想外です。
『間者ではないので安心してください。雑渡さんを迎えに来ただけです』
「そ、そうなんだ」
彼、不破君は「その」やら「えっと」と、きょろきょろと視線を泳がせている。
どうしたんでしょう。
「さ、最近、図書室で見かけないなぁなんて思ったら、学園、辞めてたんだね。えっと、タソガレドキに就職したの?」
『ええ、少し色々ありまして』
なるほど、見覚えがあるけど誰だったかと思い出していたんですね。
さて、そろそろ医務室の方へ行きましょうか。脇役なんかが不破君に時間を取らせるわけにはいきませんからね。
『それでは失礼しますね』
「あっ、……うん、」
どうせ諸泉さんのことですから、とっくの昔に勝負はついているのでしょうね。まあ、おそらく諸泉さん程度なら、何年かかろうと土井先生には勝てないと思いますけど。
「待っていろはちゃんっ!!」
背後から名前を呼ばれる。
これは、驚きました。
不破君、私の名前、知ってたんですね。
『……はい、何ですか』
「あっ、その、えっとね」
同級生から名前を呼ばれたのは初めてで、というより学園内で小松田さんと食堂のおばちゃん以外に呼ばれたのは初めてで、
何だか少し、くすぐったい。
「ぼっ、僕と、その、かっ、か、甘味屋に行かないっ?!」
『え?』
ああ、もしかして色の授業でしょうか。くのたま以外の子を誘うといった内容かもしれませんね。
『不破君すいません。まだ業務中ですので、その色の授業には協力できそうにないです』
「えっ?色?あ、違っ、」
不破君はよほど慌てているのか、ほんのり頬が赤い。
「じゅ、授業じゃなくて、その、個人的にというか……」
それはつまり、不破君とお出かけ、ということでしょうか。そんな、恐れ多い。
『それなら尚更、私なんかより他の子を誘う方がいいと思うのですが』
不破君は、先ほどまで泳がせていた視線をピタリと止め、真っ直ぐに私を見つめる。
「僕は、他の子じゃなくて、いろはちゃんと行きたいんだ」
脇役故、休日に誰かと一緒にお出かけをするだなんて初めてで。
お誘いを受けるのも初めてで。
脇役の私なんかが、行ってもいいのでしょうか。
でも、
欲をいうならば、
『明後日、忍術学園はお休みでしょう?』
行ってみたい、なんて。
「……え?」
これでも一応忍術学園に在学していましたから、学園がお休みの日くらいは覚えていますしね。
『私も明後日はお休みなんです』
「じゃ、じゃあ!」
甘味屋へ行こう!
(……やった…っ!!!)
(?不破君どうしたんですか)
(えっ、あっ、なな何でもない!!)
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