閑話5




 
 
 
偶然。



それは本当に偶然だった。



門の所で小松田さんと食堂のおばちゃんが話をしていて、そこへタカ丸さんが走って行くのが目に入った。



そして、僕が見間違えるはずのない彼女が、タカ丸さんに手を引かれて走り去って行く。








ずきん、








何ともいえない胸痛みに、僕はきゅっと胸元を握り締めた。



もしかして、いろはちゃんはタカ丸さんと……



まだ決まった訳ではないけど、僕が何も行動せずにただ待っている間に、何かあったということだけはわかる。



「………そうだよね、待ってるだけじゃ、駄目だよね」



よし、なんかやる気出てきた。



その日の夕刻、タカ丸さんを捕まえてそれとなく探ったものの、やはりいろはちゃんと逢瀬したらしい。



おっふ、そして僕のやる気がボッコボコにされた。



そして気付いたら布団の中でした。



僕、いつご飯とお風呂入ったのかな?









* * *









 
あの日から、いろはちゃんを探しているものの全く遭遇しない。どういうことだ。



うーん、どうしよう。



もういっそのこと、くのいち教室に突入した方がいいのかな。うーん、でもやっぱり規則は守らないといけないし、うーん。



「あ」

『あ』



あ、い、いいい、



いいいいいたぁぁああ!!!!?



しかも、え?何かくのいち教室の忍装束じゃなくない?任務、の色じゃないし、え?



『こんにちは、お邪魔してます』

「えっ!えっ?その忍装束って……」

『間者ではないので安心してください。雑渡さんを迎えに来ただけです』



あ、もしかして、学園辞めてたの?し、知らなかった。そりゃ見つからないよね。



それじゃあ尚更このチャンスは見逃せない。とにかく会話して、会話、会話って何話せばいいの?!もう図書室の話はできないし、えっと、その、何か話題を、話題ぃぃぃぃ!!!



「さ、最近、図書室で見かけないなぁなんて思ったら、学園、辞めてたんだね。えっと、タソガレドキに就職したの?」

『ええ、少し色々ありまして』



ばか、僕のばか。



なんでもっと気の利いた感じの会話ができないんだよ僕のばか!この前の色の授業じゃ点数良かったのに全然役に立ってないじゃないか僕のばか!



『それでは失礼しますね』

「あっ、……うん、」



すっ、といろはちゃんが僕の横を通り過ぎる。



どうする、



僕は、どうしたいの?



そんなの決まってる。



もう待ってるだけじゃ駄目だって、頑張ろうって決めたじゃないか。



だって僕は、いろはちゃんが……!







「待っていろはちゃんっ!!」



思っていたより大きな声が出た。



少し驚いたような顔をしたいろはちゃんが、ゆっくりと振り向いた。



………今の顔、可愛かった。



って違う!いや、いろはちゃんが可愛かったのは違わないけど、今はそれじゃない!



『……はい、何ですか』

「あっ、その、えっとね」


 
もう!僕のばか!今更恥ずかしがってどうするの!



「ぼっ、僕と、その、かっ、か、甘味屋に行かないっ?!」

『え?』



僕のばかばか!噛みすぎだよ!しかも声も裏返っちゃったし!もう僕のばか!



『不破君すいません。まだ業務中ですので、その色の授業には協力できそうにないです』



………ん?



「えっ?色?あ、違っ、」



もしかして僕、誘い方間違えちゃった?うわ、どうしよう!?僕はいろはちゃんと逢瀬に、逢瀬、あ、どうしよう、いろはちゃんと逢瀬だなんて考えただけで恥ずかしくなってきちゃった!!おおお落ち着いて、落ち着いて、第一、まだ誘えてないんだから!



「じゅ、授業じゃなくて、その、個人的にというか……」

『それなら尚更、私なんかより他の子を誘う方がいいと思うのですが』



………違うよ、



僕は、君だから、



いろはちゃんだから誘うんだ。



いろはちゃんだからこんなに舞い上がって、ドキドキして、胸がキュンと苦しいんだ。





だって僕は、





「僕は、他の子じゃなくて、いろはちゃんと行きたいんだ」





君が好きだから。









* * *










「さっささささ三郎っ!!!!たっ、助けてっ!!しっ、しっ、心臓がっ!!!!!!」

「どうした雷蔵っ?!!!まさか間者に毒でも……、顔が真っ赤じゃないか!!?」



ドタドタと忍者らしからぬ足音を立てて自室に駆け込む。



少し前に例の先輩が長期任務に出掛けてから、暇をしている三郎。同様に暇を持て余す我らが五年がこの長屋を溜まり場にしているので、みんなの視線が僕に集中する。



「どうしたの雷蔵?」

「おい顔マジで真っ赤だぞ」

「豆腐食べて落ち着くのだ」



差し出された豆腐はとりあえず無視させてもらい、未だバクバクと爆発寸前の心臓を落ち着かせるために胸元をギュウッと握り締める。


 
「……逢瀬、誘えた……」



そう、僕はいろはちゃんと逢瀬の約束をしたのだ。



思い出すだけでまた顔の熱が上昇していく。もう僕溶けそう!!!!!



「えっ逢瀬?やったじゃん!くのたまの子?」

「どうしよう逢瀬誘って真っ赤な雷蔵可愛いちょっと誰か今の雷蔵写生して下さいお願いします」

「まあ、そんな感じ、かな?どうしよう勘ちゃん!!美味しい甘味屋さん知ってる?!」

「……雷蔵がこの気持ち悪い三郎に毒吐かないのだ」

「これ相当マジだな」



お願い早く明後日になって!!



あっ、や、やっぱりゆっくりでいい!!!










(安藤先生に親父ギャグを
聞いとくべきか、うーん…)
(雷蔵それは聞かなくていい)



 




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