閑話4
「あっ!最後の一人見っけ〜!!」
今日は午後から授業がないから、足りなくなったお手入れ用の油の補充や思い付いた髪型の案を父に相談する為に実家へ帰ろうと思っていた。
外出届けを貰って門へと向かっていたら、ついに発見してしまったのだ。
唯一、くのたまで髪を結ったことのない女の子。
磨けば光る原石っ!!
「あらタカ丸君、どうしたの?」
「お出かけなら外出届けと、出門票にサインお願いしまぁ〜す」
食堂のおばちゃんと小松田さんに軽く挨拶して、目的の彼女の方へ向き直す。
「やっと見つけたよ!ずっと君を探してたんだ〜。ねえ今から時間あるかなぁ?」
『あ、今からお茶を』
「お茶?いいよ〜!髪を結った後に近くのお団子屋さんに行こっか〜!」
『いえ、そうではなく』
そうと決まれば急がなきゃね!
「僕の家って髪結いなんだけど、そこで髪の毛のお手入れしてもいいかな?じゃあ行こ!」
「いってらっしゃぁ〜い」
「うふふ、若いって良いわねぇ」
小松田さんと食堂のおばちゃんに見送られ、最後の一人の手を引き走り出す。まさかこのタイミングで出会えるなんて、僕ついてるな〜!
と、いう訳で、実家の髪結い店まで来たんだけど、
「えーっ!お茶って食堂のおばちゃんと飲むってことだったの?!」
『まあ、そうですね』
「ごめんね〜!僕最後の一人が見つかって興奮しちゃってたから!」
わぁやっちゃったよ〜!
僕って髪の毛のことになると周りのことが見えなくなっちゃうからなぁ……、
『でも』
「え?」
『丁度髪が伸びてきたので、揃えようと思っていましたから』
「っ!ありがとう!!」
優しい人で良かった〜!早速髪の毛いじらせて貰おう!
* * *
「はいっ、お疲れさま〜!」
やっぱりね!あんまり目立つような綺麗な髪の毛じゃないけど、コツコツとお手入れしている髪の毛だった。もうばっちり指導したから、美髪一直線だね!
『ありがとうございます。でもこの簪……』
鏡を見せると綺麗に結い上げた髪に少し驚いて、サービスで付けた簪を指差した。
「それは僕からのお礼!今日は無理矢理付き合わせちゃったからね〜」
『いえ、寧ろ私なんかに時間を使わせてしまって申し訳ありません』
「いいのいいの〜!さっ後はお団子屋さんでお茶だね!すぐそこだから行こ!」
『あっちょ、斉藤さん』
「ん?なあに?」
食堂のおばちゃんとのお茶を邪魔しちゃった代わりに、お団子をご馳走しようと思って彼女の手を引いたが、その瞬間に呼び止められる。
『あの、髪結い代を無料にしていただいたのは有り難いですが、さすがにこの簪まではいただけません。それに、こんな綺麗な簪、私には似合わないですし」
確かにちょっと色が鮮やかな簪だけど、似合わない訳じゃない。本当ならもう少し淡い色の方が理想だったけど、生憎彼女のイメージに合う色がなかったんだよね。だけどだけど、この色も似合ってると思うんだ〜。
「もう、そんなことないよ〜」
『でも』
「もっと自信もちなよ!君はとっても可愛いんだからさ!」
『……あ、りがとう、ございます』
うん!女の子はみんな気持ち次第でどんどん可愛くなれる。だからそのお手伝いができる髪結いが好きなんだよね!
その後のんびりお茶して、お茶代を奢ろうとしたらもの凄く反対されて、結局それぞれでお会計した。意外と頑固だったな〜。
そのまま別れて、ふと思い出した。
「あ、名前聞きそびれちゃった。でもまた学園で会えるよね!」
さて、まだ時間はあるし、もう少し父さんのお手伝いしてから帰ろうかな?
僕は、少し行列が出来た店内へと走って行った。
夕餉に間に合うように帰って来た僕は、ルンルン気分だった。最後の一人の髪を結えたから、忍術学園の完全制覇を達成したのだ。
今日はぐっすり眠れそうだな〜。
「……あの、タカ丸さん」
そんなことを考えながら食堂へ向かっていたら、不意に声をかけられた。
「あっ不破君だ〜、どうしたの?」
「えっと、その、今日ってもしかして、逢瀬、ですか?」
逢瀬?うーん、逢瀬かあ、
今日は午後から休みだったし、あの子の髪を結った後お団子も一緒に食べたし、よく考えたら逢瀬になっちゃうのかな?
「うん、そうかも〜」
「……そ、そうですか」
それれだけ聞くと、不破君はとぼとぼと去っていった。
どうしたんだろ〜?
(あ!もしかして、
不破君の好きな子だったのかも!)
(悪いことしちゃったなあ……)
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