閑話3




 
 
 
最近来ないなあ、



医務室で包帯を巻ながらふと思った。最近、くのたまの保健委員の子が現れなくなった。いつも定期的に補充に来ていたけど、来なくなった期間を考えるとそろそろくのたまの薬品とか包帯の予備もなくなる頃だと思うんだけどなあ。



彼女はくのたまの上級生なのだが、あまりみんなには知られていないらしい。よく山本シナ先生がくのたまの上級生はいないと言っているのを聞いた事がある。たぶん、影が薄いんだと思うんだ。先生に忘れられるなんて、やっぱりどこの保健委員も不運なのかな。



「やあ」

「あ、雑渡さん」



気配もなく現れた雑渡さんは、片手に風呂敷を持っている。またお土産を持ってきてくれたらしい。



「あらら、小さい子達はいないの?」

「まだ授業中なんです。僕たちは自習なので」



とりあえず雑渡さんにお茶を出すと、持ってきた風呂敷を広げお饅頭を渡してくれた。あ、これ美味しいやつだ。



しばらく「最近どう?」など軽い感じの会話を雑渡さんとしていたら、微かに人の気配が近付いてくる。雑渡さんのお迎えだろうか。



『失礼します』

「やっと来たー」

「………え」



いつも雑渡さんの迎えに来ていた諸泉さんではなく、先ほどまで考えていた彼女が現れた。



くのたまだったはずの彼女は、雑渡さんと同じ忍装束を身に纏っている。



『善法寺先輩こんにちは。少しだけ失礼しますねすぐに出て行きますので』

「えーまだ来たばかりだよ?」

『あ、お饅頭はお詫びも兼ねて置いていきますので』

「話も聞いてくれない」



以前、医務室に来ていた時の彼女と全くの変わっていない。変わったのは、忍装束のみ。



何故かモヤモヤする中、雑渡さんがこそりと耳打ちした。



「伊作君、無くなってから欲しがるのはなしだよ?」

「…………っ、」



本当は、ずるい、と思った。



本当は、誰も知らないくのたまを知ってて、ほんの少しの優越感に浸っていた。



僕だけが知っている、僕だけの秘密だと。


 
「最近いろはちゃんに冷たくされるの快感になってきたんだよねー」

『正気ですか気持ち悪いです』

「今日の毒舌も良い感じだよ」



その会話は、何だかとても楽しそうで……



何か、変な感じ……











(よく考えたら)
(君の名前も知らないや)



 




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