江戸の侍にろくな奴はいない(4/4)
ああ良かった。丁度良いところに生け贄、ゲフン。奴隷候補がいて。
晋ちゃんったら壊す壊すとか言ってるけど意外と一途なピュアボーイだったんだね。ぷぷ、今度手配書に書いといてやろう。
「うわぁっ!!」
そんな事を考えながら歩いていると、少し先に見えていた人が、消えた。
いや、そもそも人なんて居なかったのかも。うんきっとそうだ。
「ちょ、お銀さんっ!いますいます!ちょっと手を貸して下さいお願いします!」
『あ、不作君だー。なんでそんなとこにいんの?家?マイホーム?』
「家じゃないです!よくわかりませんが多分まいほぉむでもありません!」
あたしは穴に落ちた不作君を引っ張り上げると、彼の土で汚れた忍装服をパンパンとはたく。
「ちょ、お銀さんっ!じっ自分でできますから!」
『え、照れてんの?何ガキがいっちょ前に照れてんの?さては不作君、キミ初心だろ』
「違っ、そうじゃなく、痛っ、お銀さんっ、力入れてはたくのやめ、痛っ!」
余程恥ずかしいのか、若干涙目の不作君。こらこら、男の子が泣いちゃダメだぞ、めっ!
「ちょっとちょっとォ、年下イジメちゃダメでしょォ〜」
『……げ、』
そこにいたのは、ラスボス……じゃなかった。あたしの血を分けた兄妹の、歩く糖尿病。
何だこのオンパレード。
* * *
………痛い、背中やら尻やらが痛い。穴に落ちたからではなくて、お銀さんに叩かれたところが痛い。これきっと真っ赤だ。
多分本人は汚れをはたいているつもりだったんだろうけど、あれは叩くって言うんだよ。ぐ、痛い。
「ねェねェ銀千代ちゃん、今はここで働いてるんだって?ん?衣食住とお給料も貰ってるんだって?ん?やっぱさァ、持つべきものはデキる妹だよな。俺に甘味奢ってくれるんだもんな?な!」
『何言っちゃってんの?バカなの?アホなの?クソなの?ちなみに今月の給料は一昨日全部賭博でスったわボケェェェェッ!!』
「えええっ!ちょ、お銀さん!貴女いつの間に賭博場に行ったんですかっ!」
し、知らなかった!世話役なのに知らなかった!くっ悔しい!最上級生として悔しい!
『だから今からこの不作君と甘味屋に行くんだよ邪魔すんなよ。やっと面倒クサい三人をまいたんだよ。あたしはタダで甘味食いたいんだよ』
………お銀さん、貴女って人は、その、とても正直ですね。
「え、何それ、銀千代はこのガキとデキてんの?え、うそマジで?兄ちゃんの公認ナシで付き合っちゃってんの?おいガキ歯ァ食いしばれ」
「ちょちょちょ、待って下さい僕たち恋仲じゃ、ごふっ」
木刀で殴られました。
「え、付き合ってないの?まァよく考えりゃそうだよな、銀千代が俺より先に恋人出来るとかナイな」
『あるわボケ。お前と違ってモテるんだよあたしは。あー大丈夫?不作君。ウチの兄貴って話聞かないんだよね』
さすが兄妹ですね、……い、痛い。
『銀ちゃんなんか放っといて、甘味屋行こうか。不作君の奢りだなんてお銀さん嬉しいっ!』
「マジで?いやー悪いね。不作君?だっけ?キミなかなかいい子だねェ〜」
あれ?何か僕が奢るって話になってるけど、あれ?そんな事一言も言ってないんですけど。
『ちょっと、兄貴は来ないでよ加齢臭が移るから。甘味屋には若い不作君と若いあたしで行ってくるから』
「俺はまだ若いから!お前と年あんまり変わんないから!あと兄貴じゃなくてお兄ちゃんって呼べって言ったじゃん!」
『鬱陶しいっ!!このオッサン鬱陶しいっ!!』
「いたたたたっ!ちょ、お銀さんっ、ううううう腕がっ!!」
捻り上げてるっ!無意識に僕の腕をあらぬ方向に捻り上げてるぅぅぅっ!!
「オッサン言うな!兄ちゃんを見ろ、こんなにイケメンでこんなに爽やかな少年の心を持ってんだぞ」
『黙れマダオ。あたしの方が美人でしかも心もキレイな乙女だコノヤロー』
何かもうただの兄妹喧嘩になってる。僕が甘味を奢るとかの次元を越えた兄妹喧嘩になってる。もの凄く立ち去りたいけど、お銀さんがまだ僕の腕を握っているままなのだ。いや、捻り上げているままだ。あれ、だんだん腕の感覚が…
『だいたい、あたしの方が銀ちゃんより不作君との付き合いが長いし!めっさ仲良いし!親友飛び越えて心友だし!』
「時間なんて関係ねェし。俺なんか会った瞬間からビビッと来てたし。すでに心と心が繋がりまくってるし」
『はァ?何言ってんの?不作君が銀ちゃんなんかと仲良しになるワケないじゃん。あたしの事ちょー好きって言ってたし』
「そういうの勘違いって言うんだけど知らないの?あちゃー、どんまい銀千代!不作君は俺の方が好きって思ってっから。口に出してないけど伝わってきたし」
『あたし好きだよね!ね!不作君!』
「俺が好きだよな!な!不作君!」
「は、はは……」
いや、あの、えーっと、もう本当どうでもいいので帰って下さい。
あとお銀さん、腕が限界越えてます。
個性溢れる迷惑集団(また全助とっ…!)
(誰かこの男の話を止めさせろ!)
(…その、一応変装名人でして、)
(ああ、今日も不運だ……)
我等はフリーダム
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