江戸の侍にろくな奴はいない(3/4)
ふう、助かった助かった。ヅラっちの相手は面倒クサいんだよ本当。さてさて、町でも行って甘味を、
「……よォ、銀千代」
『…………』
あたしの前に現れた彼は、瞳孔開いてますけど大丈夫ですかと言いたくなる目で睨んできた。片目だけだけど。
『し、し、ししし晋ちゃん?一体どうしたのかな?』
「二つ、てめェに用がある」
二つもあんのかよ。
あたしさっさと甘味食いに町にに行きたいんだけど。
「銀千代、鬼兵隊に入れ」
『え、無理』
なんだ、そんな感じの用なの?これならすぐに済みそうだ。
「ククッ、そうか。なら二つ目だ」
なんかギラついた目をした晋ちゃんが、チャキリと刀を抜いた。
え、刀?
* * *
くそっ!くそっ!
坂田銀千代めっ!!
なんで毎回毎回返り討ちにされるんだ!しかも本気でやって負かされてるのが腹立つっ!!
あれだけやって落ちないって本当に女なのか!というかあの天女を女と思いたくない!
ああ駄目だ、雷蔵不足だ!
もう今日は雷蔵に構って貰おう、うんそうしよう!
『花屋の二郎君んんんんんっ!!避けろォォォォォッ!!!』
「は?」
ドカァアッ!!!
『ぐえっ!』
「がふっ!」
天女が飛んできた。平行に。
『いったー、晋ちゃん手加減って言葉知らねェなコレ。あ、花屋の一郎君大丈夫?』
「だ、大丈夫ですよ銀千代さん。貴女は羽根のように軽いですから」
おーーもーーいーーっ!!!
さっさと退けーーっ!!!
あと、私は鉢屋三郎だっ!!
何回間違えれば気が済むんだ!!
私は花屋なんか営んでないっ!!
私を下敷きにしていた坂田銀千代が、のっそりと立ち上がる。ん、よく見たらこの女、片手に木刀を持っている。
な、何だ!またそれで私をブッ叩く気か!!
「抜け銀千代、話にならねェ」
『脱げですって?!晋ちゃんアンタいつの間にそんな変態になったの!!言っとくけどあたしは脱げって言われてホイホイ脱ぐようなビッチじゃ』
「死ね」
『ぎゃああああっ!!』
………よくわからないが、天女と先日現れた天女(男)が揉めているようだ。ふん、天女め、そのまま自滅してしまえ。私は今から雷蔵に
ドカァアッ!!!
『ぐえっ!』
「がふっ!」
また天女が飛んできた。背後から。
『いたたた、晋ちゃん手加減って言葉知ってる?あたし女の子よ女の子。あ、花屋の五郎君大丈夫?』
「だ、大丈夫ですよ銀千代さん。貴女は羽根のように軽いですけど早めに退いて下さい」
おもーーーーーーいっ!!!
早く退けーーーーっ!!!
そして花屋じゃない!!
二郎でも一郎でも五郎でもない!!
は、ち、や、さ、ぶ、ろ、う、だっ!
またもや私を下敷きにしていた坂田銀千代が、腰をさすりながら立ち上がる。
『これだから晋ちゃんはモテないんだよ。ガキの頃の約束覚えてるとかピュアなクセに不器用なんだから。でももう時効じゃん?明らかな時効じゃん?悪いけど無かった事に』
「死ね」
『ぎゃああああっ!!』
男は天女の話は無視で斬りかかる。え、本当に知り合いなのかこれ。
天女はギャーギャーと騒ぎながらも、男の攻撃をひょいひょいと避けている。かなりの腕であろうあの男と普通に渡り合っているのが凄いなとか、刀を交わす姿が華麗だとかこれっぽっちも思ってない。断じて思ってない。
『ちょ、確かにあたしと勝負して晋ちゃんが勝てたら嫁にでも奴隷にでもなってやるよって言ったよ?でもそんなに好きなの?そんなにあたしの事好きだったの?だけどもう時効だっつってんだろコノヤロォォォォ!!こっち来んなァァァ!!』
………あんたも一言一句しっかり覚えてるじゃないか。
「嫁はいい、奴隷になれ」
『しかもそっちか畜生ォォォ!!』
そして、逃げ回る天女が、私を見てハッとした。
ニヤリ。
何故笑う。
まっ、まさか!!!?
そう気付いたのは、すでに天女に腕を掴まれた後だった。
『晋ちゃんコイツ昨日奴隷になりたいって言ってた!晋ちゃん見て奴隷になりたいって言ってましたァァァ!!』
「ええええぇぇっ?!!!」
ぶんっ!!!
私は宙を舞って、男の足元に転がった。
「…………」
「…………」
に、逃げられない。
私を見下ろす、いや見下すこの男の眼光に背筋が凍る。最早私は、蛇に睨まれた蛙のようだ。
「てめェは何が出来る」
「へ、変装、です」
くっくそぉぉぉぉっ!!!
覚えてろっ!坂田銀千代っ!
私は走り去る天女に復讐を誓いました。あれ、作文?
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