江戸の侍にろくな奴はいない(2/4)
よし、会話のキャッチボールが出来ない辰ちゃんは土井ちゃんになすり付けたから、後はいつも通りのんびり、
「あー、お銀さん」
『げ!ヅラっ………あ、なんだ綾っぺじゃん』
「早く穴に落ちて下さい」
『別のタイプ来ちゃったよ』
そういえばこいつ不思議ちゃんだった。声もそうだけど、マイワールドを形成している辺りがヅラっちみたいだ。やっぱ先祖か。
『ねェねェ、ヅラじゃない綾部だ!って言ってみて』
「綾部じゃない、桂だ」
『え』
「ん?」
ばばばバッド・エンカウントぉぉ!!
* * *
全く、喜八郎の奴は委員会中だというのにどこへ行ったんだ。
我が作法委員の後輩だけあってトラップの類はお手の物だが、如何せん自由過ぎて困る。
あやつには協調性というものを叩き込まねばなるまい。
『あっ!ヅラ二世!!ちょっとこっち来てあたしを助けてよ紳士らしく!』
会いたくない奴に出会ってしまった。だがその隣には目的の喜八郎がいるので、行かざるを得ない。チッ。
私は、いつものように微笑んだ。
「これは銀千代さん、貴女に会えるなんて私は幸運です」
不運だ。
伊作じゃあるまいに。
『いやー暇そうだね!っていうか暇でしょ?暇だよね?』
暇じゃない。
私はそこの喜八郎を連れてさっさと委員会に戻りたい。そして出来るなら貴様など見たくも会いたくも話したくもない。
『見てコレ、ヅラっちと綾っぺもといヅラJrのヅラコラボレーション!今なら親ヅラと子ヅラをセットでヅラ二世にあげちゃう』
ヅラヅラうるさい。セットじゃなくて喜八郎だけ渡せ。
「親ヅラじゃない、桂だ。だが銀千代は特別に“ヅラにいに”呼びでもかまわん前みたいに」
『何だその微妙なデレ』
「ヅラじゃなーい、綾部だー」
『え、今言うの?!』
「綾部じゃない、桂だ」
「カツラじゃなーい、地毛だー」
「地毛じゃない、桂だ」
「カツラなんですねー」
「カツラじゃない、桂だ」
『もういいよ!黙れよ!なんか声似てっからこんがらがってきたわ!』
…………同感だ。
頼む喜八郎、今だけ空気読んで黙っててくれ。
「お二人は仲がよろしいのですね、私たちが入る隙などな」
『マジで何なのこの髪、何このサラスト。相変わらずあたしに喧嘩売ってんねヅラコラァ』
「いたたた、ちょ、痛、その鷲掴みやめて」
全く聞いてない。
というか、これ去って良いだろうか。
さっさと喜八郎を連れて委員会に、え、あれ、喜八郎は?
『あ、ヅラ二世も見てみな。コレが元祖サラストね?わかる?あ、そうそう、何かこのヅラ二世がね攘夷志士に興味あるんだって。ホラ、この前言ってたじゃんね!』
言ってない。一言も言ってない。
「なに、まだ若いがなかなか見込みがある。そもそも攘夷志士というのはだな、」
しまった、
まんまと罠に掛かってしまった。
私はニヤニヤと笑いながら去って行く天女を睨み付けた。
あの天女、最初からこの男をなすり付けるつもりだったのだ。
「おい余所見をするな。で、どこまで話したか、ああそうそう我々攘夷志士というのはだな、」
それさっきと同じですけど。そんな事よりあの天女の思惑通りになった事が腹立たしい!喜八郎の奴も後で覚えていろ!
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