進撃するのかマダオ(2/2)




 
 
 
『えっと、巨神兵?』



それは数分前に遡る。今目の前にいるのは、人間のサイズを明らかに無視した巨大過ぎる人間。しかも裸。近藤さんの親戚か?



『あ、デイダラボッチの方でした?』



あたしの知っているデカい人種を言ってみるものの、反応がない。なんだよこの天人。



事の始まりは先日。



あたしがパチンコの景品で貰った商店街の福引きで“一名様限定!進撃の宇宙旅行☆珍獣を見て狩って楽しもう!”という、裏一等賞を当ててしまったのが全ての始まりだ。ぶっちゃけ三等のケーキバイキング無料券が欲しかった。つか裏一等賞って何なんだよ。



ちなみに一等賞の温泉旅行は新撰組の土方が当てたらしい。



別に羨ましくなんかないし。男共のむさ苦しい温泉旅行なんて全然羨ましくなんかないし。旅館のご飯なんて全くこれっぽっちも羨ましくなんかないし。



あ、あたしなんて珍獣狩れるんだぜ!!い、い、いやっほォォい!!!!










『ハズレじゃねェかよォォォォォォ!!!!明らかに大ハズレじゃねェかよォォォ!!!!誰が好き好んで珍獣なんぞ狩らなきゃなんねェんだよ!!!あたしも温泉連れてけよォォォ!!!!むしろ温泉入らなくていいから旅館の豪華な飯だけ食わせろよォォォ!!!!』



なんかワープマシンみたいなヤツで飛ばされたと思ったら変な森ん中にいるし!目の前には何かデカい素っ裸の野郎がいるし!!まさしく大ハズレじゃねェかよォォォ!!!絶対コイツだろ!!!珍獣ってコイツだろ!!!見ても全然楽しかねェよ!!!何で野郎の裸見て楽しまなきゃなんねェんだよただの変態じゃねェかァァァァァァ!!!!!



「ア゛ア゛ア゛ア゛ァァ」

『うおォォッ?!!!!』



おみくじでいう大凶を引き当てた自分への苛立ちを地団駄を踏みながら叫んでいたら、目の前の珍獣が奇声をあげながらブンッと腕をあたし目掛けて振り下ろした。



『あっぶねェなチキショォォ!!!何この珍獣!?凶暴なの?!この珍獣凶暴なの?!!!聞いてないですけど?!!珍獣が凶暴なんて聞いてないですけどォォォ???!!!』


 
声かけてもボーっとしてるだけだったからてっきりおとなしい珍獣かと思いきや、思いっ切り攻撃してきた。というかヨダレ垂らしながらあたしを見てるって事は食う気?え!食う気なの?!!!



『なっ、てめェ!!!まさかあたしを食おうってんじゃねェだろうな!!!確かにこんなに美人で性格もよくて若くてピッチピチな銀千代ちゃんはさぞかし美味しいだろうけどな!!っていうか食うの?!マジで食うの?!!!』

「その通りだ」

『は?』



聞き覚えのない声と共に、視界の外れを素早い“ナニか”が通り過ぎた。






―――ザシュ!!!!!






『オギャアアアアア!!!珍獣の血の雨だァァァァァ!!!』



その素早い“ナニか”が通り過ぎた瞬間、目の前のデカい珍獣が血しぶきを撒き散らしながら倒れてきた。



『おわっと!あっ危ねェ!!下敷きになるとこだったわ!珍獣とサンドイッチなんてごめんだよ!』

「……チッ、でけぇな」

『ッッ!?』



突然の声にビクッと肩を揺らして振り向くと、小柄な少年が怪訝な表情であたしを睨み付けていた。何この子こえェェ……。



『えっと、ボク?どうしたのかな?迷子かな?もしかしてキミも福引きの珍獣』

「削ぐぞてめぇ」

『ええェェッ?!!何で?!』



怖ッ!!!この子怖ッ!!!



なんか削ぐとか言ってますけど??!!!両手にゴツい刀持って削ぐとか言ってますけどォォォ?!!!もしかして今さっき素っ裸の珍獣をブッた斬ったのボクちゃんですか?!!!まさか珍獣ハンターってヤツですかァァァ??!!!



……ん?珍獣ハンター?



『あ、もしかしてボク、この福引きツアーのガイドさん?』

「……はぁ?」
 
『ちょっとさァ、ガイドなら早めに到着してくんない?珍獣っつったってわかんないじゃん?珍獣の定義がわかんないじゃん?だってホラ、真選組とかだって珍獣の集まりじゃん?今回は明らかな珍獣だったからなんとかなったけど、こんなんじゃ商売やってけないよ?つかボクちゃんみたいな下っ端じゃなくて責任者呼んで来いよ。珍獣が凶暴とか聞いてねェよこちとら食われかけて血しぶき浴び……って何じゃこりゃあァァァァァ?!!!!あの珍獣とあたしの着物めっさ煙ってるんですけど?!!血から湯気出てますけど??!シューッとかいって蒸発してますけどォォォ???!!!』



倒れたデカい珍獣からはモクモクと煙が上がり、みるみる体が蒸発していく。先ほどもろに被った珍獣の血しぶきからも同様に煙が上がり蒸発している。




『もういいよォォ……珍獣とかもういいよォォ……やっぱキャンセルにするから帰っていい?百円あげるからさァ……あ、でもさっきどら焼き買ったから五円しかないや』

「……チッ、ブツブツうるせぇな。とりあえず話は後だ、乗れ」

『乗れって、え、馬?』

「本当は小汚ねぇてめぇなんぞには触りたかねぇが、てめぇには色々と聞きたい事がある」

『ん?今小汚いって言った?』



色々と聞きたい事があるのはこちらも同じなので、ガイドのボクちゃんの後ろに乗せてもらう。



『いやァ、馬移動なんて中々古風だねぇ!でもたまにはいいよねこんなのも』

「はぁ?」

『ほらほらガイドさん!とりあえず事務所までレッツゴー!茶菓子があたしを呼んでるぜ!!』

「……イカレたデカ女が」


 
こうして、進撃の世界に場違いな女が一人迷い込んだ。








進撃するのかマダオ


(……リヴァイ、彼女は?)
(……森にいた)
(え、それヅラじゃね?)
(………)
(……こんにちはお嬢さん、
これはヅラではないよ)
(そこは桂だ、でしょ)
(いや、カツラでもないよ)
(そんなのどうでもいい。
おいデカ女、質問に答えろ)
(えー面倒くさい)
((え))


うん、しなさそうだ。


 







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