それでは、皆さん。
どうも、こんにちは。
忍術学園脇役代表、いろはです。
今日は、とうとう退学の日です。
この五年間、平凡に脇役で過ごしてきました。
特に親友もおらず、特に恋愛もせず、特に青春もせずに終わりました。
この年で、初恋もまだなんて笑われそうですが、行儀見習いで入学した時点で、いずれどこかに嫁がされるとは思っていたので、特に支障はありません。
脇役なりに、意外と充実した毎日を送ったのではないかと思ってます。行儀見習いは苦痛でしたが、忍術は楽しかったですし。
それにしても、人生何があるかわかりませんね。
見合いして嫁いで、嫁ぎ先の子を産み、平凡に脇役人生を過ごすとばかり思っていたら……
まさか、くの一として就活できるなんて思ってもみませんでしたから。
きっとタソガレドキでも脇役人生を送ることになるでしょうが、今よりさらに充実した毎日を送れそうです。
あ、荷物をまとめ終えたので、移動しますね。
* * *
もう着ることのない、くのたまの忍装服を返却し、貸し出し期限ギリギリの本を返却に向かう。
『返却でお願いします』
「今回はギリギリだね」
ふんわりと笑う不破君。
図書室恒例の、中在家先輩のもそもそ声と不破君スマイルも見納めか……。
「来週、新刊が入る予定だよ」
『……来週、か。ありがとうございます』
お礼をして、図書室を後にする。
うーん、本は読みたいな。タソガレドキって書庫みたいのはあるのだろうか。
学園の返却物品を全て返却し、まとめた荷物を持ち上げる。
うん、荷物少なくて良かった。
荷造り中、くのたま達が「天女が」やら「先輩が」やらと騒がしかったが、おそらく自称天女様とバレバレな男装の先輩の醜い争いだろう。
静かなくのたま校舎を通り抜け、忍たま校舎の門へと向かう。
あ、食堂のおばちゃんに挨拶しよう。
私は方向転換し、食堂へと向かった。
* * *
食堂に近付くにつれ、徐々に騒がしくなる。
これは、裏から行ったほうが良さそうだ。
食堂の裏口に回り、小声でおばちゃんを呼ぶ。
「あら、いろはちゃんこんにちは。昼餉なら少し待って貰える?ほら、この騒ぎだから」
おばちゃんの視線の先には、自称天女様とバレバレな男装の先輩、そして忍たまの群れ。
『こんにちは。昼餉は残念ですが、今日はご挨拶に来たんです。今日で退学する事になったので』
「あらそうなの、寂しくなるわ」
おばちゃんと最後の他愛ない会話中、騒ぎの中心の二人は益々ヒートアップしていた。
「みんな目を覚まして!この天女は嘘つきよ!天女だなんて言ってみんなを惑わしてるの!」
「未来から来たのは本当だもの!それよりこの忍たま、実は女よ!ずっとみんなを騙してたのよ!」
何だか、大暴露大会が勃発している。
六年生の「お前、女だったのか」という、お約束の台詞を聞き流し、もう一度おばちゃんに向き直す。
「では、そろそろ行きますね」
「またいつでもいらっしゃい、体に気を付けてね」
「はい、おばちゃんも」
おばちゃんは、私の名前を覚えている奇跡の三人の内の一人だ。
私は、バレバレな男装の先輩が「私、本当は言いたかったの」と自分の過去を言い訳代わりに喋り出したと同時に食堂を去った。
まあ、興味ないですし。
「あ、いろはちゃん、どこか行くの?」
私の名前を迷いなく言う小松田さん。みんなはへっぽこだと言うけれど、私の中の評価は高めです。
『ええ、ちょっと』
わざわざ言うこともないか、
「じゃあ、この出門表にサインして下さいねぇ〜」
『わかりました』
さらさらと名前を書き込む。これが最後のサインである。
『では小松田さん、またいつか』
「?いってらっしゃ〜い」
門を出た私は、五年間の感謝を込めて、忍術学園にお辞儀した。
五年間お世話になりました。
最後は変な自称天女様も降って来ましたが、それなりに充実した五年間でした。
それでは皆さん、
脇役は去りますので、どうぞご自由に。
(主役の座を捨てた少女の話、)
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