正しい天女の過ごし方(5/8)




 
 
 
陰湿な天女だな。



天井から監視する鉢屋は、冷めた目で卑弥子を見下ろしていた。



今回の天女は、今までの天女共と比べると地味だ。



化粧もしないし、あの甘ったるい声も出さない、そして全く媚びてこない。一体何を企んでいるんだ。



「(三郎、はいお土産)」



矢羽音が聞こえ振り返ると、雷蔵がテスト用紙を片手に微笑んでいた。



くっ、なんて癒やし効果抜群の微笑みなんだ!



今この瞬間を写生したい!乱太郎今すぐ来て写生してくれ!



「(それにしても、満点だなんてさすが三郎だね。見直したよ)」

「(雷蔵っ……!)」



雷蔵が私を褒めている!!



しっ、幸せだ!!!



「(大体、この前のテストは全部空白で提出したでしょいい年して馬鹿じゃないの)」

「(あ、あれ、ら、雷蔵?)」

「(そうそう、ハチ達が天女様に会いに行くから合流しようって言ってたよ)」



あんなに持ち上げておいて、一気に突き落とすなんて……



こんな高等技術一体どこで身に付けたんだ!さすが私の雷蔵だご馳走様です!



「(もう三郎ったら、顔気持ち悪いよ。ほら行こう)」

「(ああ!……ん?今気持ち悪いって言った?)」



雷蔵は最後の矢羽音を放った後、天井裏から消えた。



私は、手に持ったテスト用紙を見つめた。



そうさ、この天女が何を企んでいようと関係ない。一気に落として課題終了、それでおしまいだ。



いつもの日常に戻るんだ。



六年生や兵助には悪いが、今回も私が天女を落とさせてもらう。









* * *










 
『よ、よっ日本一』







……………。




何故、そうなる。




今までの天女なら一発で落ちたのに、何故そうなる。



何故興味なさそうなんだ。あと何故若干迷惑そうなんだ。



それよりも、天女が棒読みすぎて勘右衛門とハチが背後で思いっ切り吹いた。「ブッ」て思いっ切り吹いた。



『え、あの、褒め間違えましたか?』

「い、いや、間違えてない、です」



何故敬語になったんだ私。それより褒め間違えるってなんだ。



「(悪いちょっと無理!)」

「(俺もっ…!)」



ハチと勘右衛門から矢羽音が聞こえ、二人は走り去って行った。



これはつまりアレか、私の空回りだということか?



この私が空回っている、だと?!



ありえないっ!!!






『よっ、日本一』






…………。



「も、もっかい言った……!」

「へへ兵助、声、出てる……ぷふっ」



兵助と雷蔵は矢羽音すら使い忘れている。そして雷蔵はそろそろ限界だ。



私、どうしよう。



とりあえず、出よう。



私は、静かにその場を立ち去った。



見上げた空は、とても晴れていた。



 








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