正しい天女の過ごし方(2/8)
朝からテンションの高い竹谷さんに絡まれ、その隣のテンション低めのサラスト忍者に微笑まれ、食堂では昨日と一昨日に私を担当していた忍者たちに微笑まれていた。
危険日が終わったのに、この疲労感は一体何なんだ。そして何なんだあの忍者たちは。紳士過ぎて逆に引くわ。まあ、あのテンション高い竹谷さんは論外だけれども。あの人は空気読む練習をした方がいい。
「あ、天女様」
もう聞き慣れてしまった「天女様」と言う呼び掛けに、ゆっくりと振り向いた。
「あっ土井先生!どうしたんですか?」
「いや、少し天女様と話たいんだが構わないか?」
「先生、少しだけですよ?」
昨日お手伝いの件で話しかけた忍者と、髪の毛すごい忍者がハハハと楽しげに話している。
今の会話は、一体どこが面白かったのだろう。忍者というのは笑いのツボが謎だ。まぁ、全くもって興味はないが。
「それでは天女様、行きましょうか」
『はあ、』
どこにだよ。
爽やかに「行きましょうか」とか言ってるけど、アッチに連れて逝く気か。そうなのか。
「では、学園長先生の庵までご案内しますね」
『はあ、』
それを先を言えよ。
無駄にビビったわ。
こうして私は、この忍者の学校のお偉いさんの部屋へと連れていかれた。
* * *
「ほっほっほっ、よう来たのぅ天女様」
『はあ、』
え、そっちが呼んだんじゃないの。私は用事なんてないけど。
「あ、卑弥子だ。おはよー」
ひょこっと天井から上半身を出してきたのは、紺ちゃん。
その登場の仕方は心臓に悪いからやめろマジで。
『……お、おはよう、ございます』
「うむ、おはよう」
あ、しまった。紺ちゃんに挨拶しちゃった。でもこのおじいさんが勘違いで挨拶返してくれたから、そのままにしておこう。うん、そうしよう。
「土井先生から聞いたんじゃが、お手伝いをしたいそうじゃな」
『……土井先生?』
「私の事ですよ」
『はあ、そうなんですね』
土井先生ってことは、やっぱり教師か。自分の勘の良さを褒めたい。
「食堂のお手伝いはどうじゃ?」
にこにこと微笑んでいるお偉いさんと、土井先生?とかいう人。
「やめといた方がいいんじゃない?」
いつの間にか隣に座っていた紺ちゃんが、面倒臭そうに呟いた。
「朝昼晩、毎日彼らに愛想笑いしながら食事の配膳できるの?」
それはつまり、私を担当している忍者みたいな奴らがうじゃうじゃ集まる場所に行けってことかマジか。
『それは無理』
「天女様?」
『あ、すいません。でも出来ればもっと雑用っぽいのがいいんですけど、掃除とか』
そう言えば、お偉いさんと土井先生とかいう人が驚いたような顔になった。
何、私変なこと言った?
「掃除、ですか」
『え、ここ掃除しないの』
「しますよ!」
じゃあ何で驚いてんの。もしかして人気職で店員オーバーとか?
「ううむ、土井先生や。天女様の仕事の件は十分承知済みじゃ。小松田君の補佐でもやらせたらどうじゃ?」
「そうですね、事務仕事なら問題ないでしょう」
何かよくわからないけど、とりあえず食堂じゃなくて良さそうだ。
「それでは天女様、明日から事務の小松田君の補佐をしてもらいます。小松田君を紹介しますので、ご案内しますね」
『あ、はあ、』
仕事は明日からだそうだ。
時代は違うけど、アルバイトってことだよねこれ。
まさか、人生初のアルバイトが神隠しした場所だとは思わなかったよマジで。
私は、土井先生とかいう先生に連れられ、小松田君とかいう上司に挨拶へ向かった。
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