危険な日のち安全な日(5/6)




 
 
 
やっと夜が来た。



やっと危険日が終わる。



週に一度やって来る危険日、それは数珠を外さなければならない日の事である。



この兄貴お手製の数珠は、近付く霊を退散させる力を持っている。使い方によっては、消滅させることも出来る優れものである。ただ同時に、身につける時間が長いほど不幸を呼びよせるという反動がある。



私は数珠を貰った当初、取り憑かれるよりも不幸の方がマシだと思っていた。



しかし兄に「連続でも一週間が不運で済むギリギリの程度かな。それ以上身に付けると、生死に関わる不幸が起こるよー」とのん気に言われた。ふざけんなコノヤローと言いたかったが、霊を追っ払うだけの万能な物など存在しないのだ。それ相応の代償が必要らしい。兄曰く「ギブアンドテイク〜」だとか。うるせーよ。



つまり私は、週に一度だけ無防備な状態になるのだ。元の世界では兄の助けもあり、何とか平穏に過ごしていた。



まあ、平穏といっても、生死に関わる霊共に取り憑かれないという意味である。霊には日々追われているので、一般霊イコール日常だ。



現代の霊は草食系が多く、間接的な攻撃が多かった。しかし、ここは真っ向から向かって来る肉食系が多い気がする。え?草食系とか肉食系の使い方が間違ってる?……うるせーよ。



そこまで理解していながら、何故、神隠しに遭うほどの不幸になってしまったかというと……。



理由は簡単、外せなかったのだ。



神隠し直前まで、私はとあるキャバ嬢の霊に付きまとわれていた。外せなかったんだよ。だってあいつ「知ってっかんな。アンタがもうすぐその数珠外すコト知ってっかんな。ぜってー取り憑くかんな。待ってんだよ、タカシが待ってんだよ。さっさとその体寄越せよブス」とか言うんだもん。無理だよ!外せねぇよ!怖すぎて外せねぇよ!ケバいし透けてるし睨んでるし怖えぇんだよ!第一タカシって誰だよ知らねぇよ!!



あいつが四六時中付きまとうもんだから、数珠が外せなくて、どうしようと考えてたら神隠しだよ。



………思い出したら腹立ってきた。


 
塩盛ってさっさと寝よう。









* * *










塩を、盛っていた。



次は、入り口側だった。








『……………』








……なんかいる。



入り口になんかいる。








『……………』

「……………」








……座ってる。



入り口で座ってる。



堂々と胡座かいて座ってる。



見た感じは、侍っぽい。



え?忍者の学校に?侍?



場所間違えてない?



まあ、関係ないか。



しっかし位置的に邪魔だな。



…………塩まくか。






サラ。






「ぬおおぉぉぉおっ!!きっ貴様っ!!何をするっ!!?」

『何って、塩盛ってんですけど。つか見たら分かるだろ空気読めよ去れよ』



軽い身のこなしで塩を避け、私に向けて抜刀した。侍っぽい霊め、いくら抜刀したって今の私には盛り塩バリアがあるんだ。



「貴様っ!拙者を誰だと心得る!あの徳之丞なるぞ!」

『どの徳之丞だよ!誰だよ!知らないよアンタなんか!べらべら喋る暇があったらとっとと私の視界から消えろボケェ!!』



何なんだこの面倒臭い霊は!



「なんと!この武蔵河徳之丞を知らぬとは何たる無礼!」

『無礼も何もねぇよ!いいからどっか行け!!』



もうマジでどっか行けよ!私は塩盛ってさっさと寝たいんだよ!



「小娘め、……む?お主、拙者が見えておるのか?おいっ!!小娘っ!!どうなのだっ!!」

『去れボケェェエエエ!!』



私は、塩を投げた。いや、思いっ切り投げつけた。



「ぬおおぉぉぉおぉおっ!!」



吹っ飛ばされた侍っぽい霊を横目に、パンパンと手を叩いた。



ありがとう、塩。



 








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