ウワサの天女様(6/6)




 
 
 
ちょっと困った。



今日の天女様の担当は俺と勘右衛門で、監視は八左ヱ門だ。



担当の特権である朝の挨拶で、勘右衛門が思いのほか攻めていた。三郎がすでに落としにかかっているのは昨日の時点で分かっているし、八左ヱ門も成績があるから今後攻めてくるのは予測していた。しかし、天女様関係に興味がない勘右衛門に関しては全く予測していなかった。



今回も適当に愛想を振り撒いて終わりかと思っていたが、どうやら勘右衛門も攻めるらしい。



出遅れた俺は、井戸へ案内した後に水を汲んでやり、さり気なく口説いてみるが手応えはない。



もっと押しの強い方が良いのだろうか、ただ単に五年生狙いじゃないのだろうか。というよりこの天女様全然人の話を聞いていないのだ。朝礼で自己紹介といえば天女様以外いないだろ。やっぱり何考えてるか全く読めない。



朝礼では、本当にサラリと挨拶しただけで終わった。しかも声が小さくて何言ってるか聞き取り辛かった。全生徒の前で自分をアピールできる絶好の機会なのに、何であんなに面倒臭そうなのだ。全く読めない。



解散後は、すぐに六年生の先輩達が天女様へ方に集まっていた。さすが先輩達、挨拶と握手を自然にやっている。しかし天女様は嬉しそうではない。五・六年生でなければ、四年生狙いか、土井先生や利吉さんの可能性もある。………まさか下級生か?



あらゆる可能性を考えるが、逆転すればいいだけの事だ。



そう考えていたのは俺だけじゃなく、三郎や勘右衛門も同じな様で、話をしている六年生達から天女様を奪わせて貰った。



今回の課題は絶対トップになってみせる。三郎や先輩達にだって負けないのだ。



先輩達と交わる鋭い視線の中で、さらに自分の決意を固めた。








* * *









 
食堂に入ってからは、天女様はどこか緊張した様子だった。



……目当ての奴がいるのか?




軽く食堂内を見渡してみるが、下級生がちょこちょこいるだけで上級生は俺たち五年生だけだ。



「天女様は決まりましたか?」

『あ、私は、』



余所見なんかさせない。優しい言葉、優しい微笑みを向けて天女様をゆっくり染めていく。



ゆっくり、ゆっくり、



俺で染める。



『……や、焼き魚、で』



席へと誘導し、俺と勘右衛門が天女様の両隣に座り、三郎と雷蔵、八左ヱ門と良太郎が前の席へ座る。勘右衛門の「いっただきまーす」と言うかけ声で、俺も朝餉を食べ始めた。











食事を警戒しているのか、腹が減っていないのか定かではないが、天女様は朝餉に手をつけようとしない。



「(おい雷蔵、この天女まだ毒があるとか思ってんじゃないのか)」

「(うーん、けど普通は警戒するもんじゃない?今までの天女様と違って少しは頭がマシだね)」

「(雷蔵ったら言うねー)」



矢羽音を飛ばしつつ、雷蔵と三郎が天女様に食べないのかと聞くが、その後の八左ヱ門のアホ発言に良太郎がフォローに入る。



………八左ヱ門は多分今回も最下位になりそうなのだ。



まあ、いい。



なぜなら俺は、



今から豆腐で攻める!



「(兵助!もう豆腐の話やめろ!どうせ天女も聞いていない!)」

「(まだ三分の一も話してないのだ)」

「(おい、雷蔵寝てるぞ)」

「(天女サマ放置だねあはは)」

「(勘右衛門笑ってる場合じゃ……)」



しばらく豆腐の素晴らしさについて天女様に説明していたら、雷蔵は寝ているし、三郎は耳塞いでるし、八左ヱ門は空気だし、勘右衛門は笑ってるし、良太郎はなんか困ってる。



どうした。



矢羽音に集中していたら、隣でおとなしかった天女様が口を開いた。




 
『骨粗鬆症で骨カッスカスになってくたばれ骨め』





しばらく黙っていた天女様が口を開いたと思ったら、もの凄い発言をされた。



こつそしょうしょう?っていうのは分からないけど、骨カスカスでくたばれってどういう事だ。女の言う台詞じゃないだろそれ。



ちょっと予想外過ぎる出来事にみんなが一時停止していると、天女様が懐の巾着を取ってくれと言う。



………この天女様、こんな雰囲気もくそもない状態で色を仕掛ける気か?え、正気?



しかし俺にとったら良いチャンスだ。これにわざと掛かる事で俺への関心を持たせて、あとは俺の色で一気に落とす。



俺は天女様の指示通り、懐に手を入れ巾着を探す。探す。探しているが、あれ、ないのだ。



懐を一周したくらいでやっと巾着を見つけると、今度は体がつって動かないとほざく。再び天女様の指示通りに、腕輪を手に乗せた。



すると、こてんと俺にもたれ掛かって来る天女様。



………これは、俺に脈アリと考えても良いのだろうか。ならば、三郎や先輩達に逆転されないようにもっと深く惚れ込ますのみ。


『え、あ、すいません』

「いえ天女様、疲れたのなら俺に寄りかかっても大丈夫ですよ」

『あ結構です遠慮しますのでどうぞご飯食べて下さい』



そう言って、天女様は俺から離れて食事し始めた。






え、どういう事?






「(この天女、私たちをからかって仲でも引き裂くつもりか)」

「(一瞬兵助狙いかと思ったんだけど、何を企んでいるんだ)」

「(うーん、兵助を狙っているように見せているのかもしれないし、本当に兵助狙いなのかもしれないし………うーん、)」

「(悩むな雷蔵、お前寝るから)」






え、どういう事?






ちょっと困った、この天女様全く読めない。









 
ウワサの天女様


(……あ、そういえば
天女様あんま胸なかったな)


さり気なくチェック
思春期だもの



 








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