ウワサの天女様(4/6)




 
 
 
佐藤くんと吉田くんとその他四名に連れられて、食堂に到着した。そして、現在進行中で全身骨の明らかな霊にガン見されている。



ヤバいヤバいヤバい。



あの骨ちょー見てる。



目とかないからよく分かんないけど、とりあえずこっちガン見してるのは確かだ。よし、知らない振りしよう。



「天女サマ何にするー?俺はAの焼き魚ー!」

「俺は冷や奴付いてるBがいいのだ」

「うーん、焼き魚も食べたいけど目玉焼きも食べたい、うーん、でも昨日の朝が魚だったし、けど昼は卵料理だったし、うーん……」

「あはは、雷蔵はまた悩んでるのか」

「笑い事じゃないぞ良太郎。おばちゃん、私と雷蔵はAとBだ」

「俺Bー!」



違和感ないからスルーしそうだったけど、なんでこいつらアルファベット使ってんだ。昨日の麻婆豆腐といいカタカナ発言といいシャンプーといい、ちょっと色々おかしいんじゃないのか。



「天女様は決まりましたか?」

『あ、私は、』



黒髪の吉田くんに笑顔で促され、「Aの焼き魚で、」と言おうとした瞬間、背後の空気がヒヤリとした。







知らない振り?



もうみんな知ってるよ。



見える奴が来たって。



良いカモが来たって。







耳元で囁かれたのは、ついさっき霊の田中に忠告された内容と全く同じだった。



『……や、焼き魚、で』



おばちゃんから渡されたお盆を持って、佐藤くんや吉田くんに案内された場所に腰掛ける。後ろには、カタカタと骨を鳴らしながらついて来る骨の霊。



前の席には双子とボサボサ忍者とサラサラ忍者、両脇には佐藤くんと吉田くん、背後は骨。何か包囲されてしまった。何だこのカオス。



「じゃあ、いっただきまーす」



佐藤くんの元気なかけ声が合図となり、吉田くんや双子の忍者、サラサラ忍者とボサボサ忍者も「いただきます」と食べ始めた。



お腹もそこそこ空いているし、昨日の麻婆豆腐を作った人の料理だから絶対おいしい。


 
けど、食べるのは、やめた方がいい気がする。



私が料理に手をつけずに見つめていると、前の席に座っていた双子が話し掛けて来る。



「天女様、どうかしました?」

「ん?食べないのか」



ご飯に手をつけようとしない私を疑問に思ったのか、サラサラ忍者とボサボサ忍者が……鈴木くんと坂本くんでいっか。鈴木くんと坂本くんがこちらを不思議そうに見ている。



『あ、考え事、を』

「天女様は魚苦手なのか?」

「八左ヱ門、嫌いなら頼まないよ」

「そっか、ははは!」

『…………』



もう放っといてよ私なんか放っておいて飯食ってろよそれどころじゃないんだよ。箸を持ったらアウトな気がするんだよ経験上の第六感が騒ぎまくってんだよ悟れよ忍者共め。



しかし、あろう事か双子の言葉に反応した鈴木くんと坂本くん、さらに両サイドの佐藤くんと吉田くんまでも私に注目している。つまり全員が食べるのを止めて私を見ている。



え、何これ拷問?



『………いただきます』



畜生、忍者こんちくしょう。何かあったらこいつら呪ってやる。



私はこの六人に見られながら、恐る恐る箸を取った。









* * *










おいしい、けど、



あれから食事し始めた私は、やたらと話しかけてくるこいつらに若干引いてる。目の前に座っている双子の片割れは、勝手に喋って勝手に悩んで勝手に寝てしまったし、隣の吉田くんに関しては、冷や奴を持ってなんか熱弁している。こわっ!この忍者こわっ!



私はこのドン引きに値する忍者達に気を取られ、背後でゾクリと感じる嫌な予感に対応出来なかった。







いいなぁ、



いいなぁ。



たべたいなぁ、



ぼくも、たべたいなぁ。







――――――どくん、



『……っ!?』



しまった、



背後にいた骨の霊に取り憑かれた、いやこれは憑依だ。



金縛りのように体が動かない、ヤバい、早く対処しないと意識も乗っ取られる。


 
まずい、これはまずいぞ。



やりやがったな骨め。



口は動くだろうか。



よし、イチかバチか、






『骨粗鬆症で骨カッスカスになってくたばれ骨め』



あ、動いた。



「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」



喋れるならこっちのもんだ。



早く、隣の人に、



『あのすいません私の隣のどちかの人、懐に入れてる巾着を取って貰えません?』

「へ?」

「……わかりました」



反応してくれたのは、吉田くんの方だ。素早い反応ありがとう。おい佐藤てめぇ「へ?」じゃねぇよ変な髪型しやがって。



懐に手を入れて、巾着を探してくれている吉田くん。お願い早く、そんなまさぐらなくても分かるだろこいつ巾着知らねえの?



吉田くんは「あった」と小さく呟き、私の懐から巾着を取り出した。



……あ、ヤバい、頭ボーっとしてきた。早く、早く数珠を、



『その巾着の中の数珠……じゃなくてブレスレット……でもなくて、腕輪だ。腕輪を私の手に乗せてくれませんか、えっと、体がつったので動けません』

「……わかりました」



吉田くんは巾着から数珠を取り出すと、私の手を取り、乗せた。





―――――バチィッ!!




『……っ、』



憑依していた骨の霊が弾き出される。それと同時に体が脱力し、吉田くんの方へ倒れる。





おのれえええぇぇ!!





骨の霊は、背筋が凍り付くような低い声で唸りながら消え失せた。



………た、助かった。



ヤバい、怖い、塩!助けて塩!



「………天女様?」

『え、あ、すいません』

「いえ天女様、疲れたのなら俺に寄りかかっても大丈夫ですよ」

『あ結構です遠慮しますのでどうぞご飯食べて下さい』



私は吉田くんから離れ、食事を開始する。とりあえず霊は去ったはずなのに、なんか空気がピリピリしてるのは何故だろう。まさか、まだどっかから狙ってんのか。やだこわい食堂こわい。




 








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