ウワサの天女様(3/6)




 
 
 
「天女サマおはよー!」

「おはようございます天女様」



田中が去って、すぐに現れた昨日の忍者達。片方は記憶にある。やたらニコニコしてたすごい髪の忍者。もう片方は、見たような見なかったような、黒髪で肌の白い顔が整った睫毛が長い忍者。



今日の担当、という事か。



「天女サマって早起きなんだね!俺ちょっと見直しちゃったー!」



すごい髪のニコニコしてる忍者、ああー長いから佐藤ね。佐藤くんが何を思ったのか「よしよし」と私の頭を撫でている。



なんだこいつ。



それにしてもこの髪、ものすごい変……ゲフン、不思議な髪だ。もしかして、うどん屋だから髪の毛で宣伝してるとか?ははー、そりゃないか。



「勘右衛門、天女様が困ってるのだ」

「えーそう?」



佐藤くんは最後にポンポンと軽く叩いて、その手を退けた。



「もうすぐ臨時朝礼が始まりますので、井戸まで案内しますね」

「早くーこっちだよ!」



手招きする佐藤くん、と真面目な感じの睫毛長い忍者。



井戸、か。



聞き慣れない単語に、私は二人の後を追いかけながら、キュッと胸元を握り締めた。



神、隠し……。



受験頑張って高校も合格したし、霊には追われ続けてる人生だったけど、帰りたい。



井戸まで案内され、真面目な感じの睫毛長い忍者の方……うーん、吉田くんが水を汲み上げてくれた。



『………ありがとうございます』

「気にしないで下さい。俺が天女様にしてあげたかっただけですから」



へー、吉田くんは慈愛に満ちてるんですね。私ボランティアとかしないしな。



小さい頃、夏休みの宿題でボランティアに参加して感想文を書くっていう課題が出た事がある。夏休み中盤で海辺のゴミ拾いというボランティアがあるよ、と近所のおばさんが教えてくれた。ボランティア参加が最後の宿題だったので喜んでいたら、近くにいた別のおばさんが今からあるから一緒に行こうと案内してくれた。


 
結果、そのボランティアは次の日曜日の話で、私が行ったボランティアは幽霊集団による“みんなで仲良く逝きましょう”という活動だった。



偶然、兄貴がその海辺にいたので助かったが、翌日の新聞でサーファーやら海水浴に来た数名が行方不明になったという記事が載っていた。



だから、ボランティアなんてもう絶対しない。良心につけ込む霊共が主催するボランティア活動で、アッチに逝くってどういう事だ!



「あ、朝礼の挨拶だけど、緊張しないで?リラックスリラックスだよー」

「軽い自己紹介みたいなもので大丈夫だと思いますよ」

『へー、そうなんですね』





え、自己紹介?また?





『そちらの自己紹介なら昨日聞きましたけどまあ覚えてませんが』

「………天女様、話聞いてました?」

『え?』









なんか朝礼で挨拶するらしい。



学校かよ。



あ、学校だった。









* * *









 
『……昨日からお世話になる事になりました坂吉です。よろしくお願いします』



私は不本意ながら、ズラリと列を作って集合している忍者達の前で挨拶をした。



あんまり人前に立つのが得意じゃない私は、足はガクガク、手は汗でべっちょりだ。



「天女様」



とりあえず着物で手の汗を拭うが、なんか気持ち悪い。トイレで手洗って来ようかな。あ、水道ないんだった。



「天女様」



じゃあ、さっき連れて行ってもらった井戸に行くか。ああ、でも水を汲み上げるのってパワーいるよね。私あんまり筋肉とかないんだよね、帰宅部だし。



「………天女様っ!」

『へ』



気が付くと、緑っぽい忍者服の軍団がいた。いつからいたの。こわっ!忍者こわっ!!



「すいません天女様。早く貴女に挨拶をしたかったので……」

『へーそうなんですね』



なんで手握ってんの?手汗ヤバいから離して欲しいんだけど。ていうかなんでこの人手握ってんの?さり気なさすぎて気付かなかった。なんで手握ってんの?マジで。



「ずるいぞ仙蔵!私も天女様と手を繋ぎたいっ!!」

「……もそ、落ち着け小平太」

「あの、よろしくね、天女様」

「ああっ!いさっくんも手握ってる!ずるいずるいっ!」



この緑っぽい忍者服の集団は、握手が好きらしい。ぶっちゃけどうでもいい。私はそこまで握手好きじゃないし。第一、握手してアイドルみたいに愛想だって振りまけないし。それ以前に手汗ヤバいから離して欲しい。そういえばなんで手握ってんの?



「知っているだろうが、私は立花仙蔵だ」

『へーそうなんですね』

「僕は善法寺伊作です」

『へーそうなんですね』

「七松小平太だ!はいっ握手!」

『へーそうなんですね』

「……もそ、中在家長次だ」

『へーそうなんですね』

「潮江文次郎だ」

『へーそうなんですね』

「俺は食満留三郎だ、よろしくな!」

『へーそうなんですね』

「よろしく」

『へーそうなん、………』


 
私は、最後の一人が握手をしようと伸ばして来た手を握らず、反射的に引っ込めた。



「…………チッ」



七人目の彼は、憎らしげに私を睨み付け、スゥーっと消えていった。



「?天女様どうした」

「……もそ、顔色が良くない」



どうしたもこうしたもねェよ。あんたらが握手なんかするから、うっかりアッチに逝きそうだったわ!なんなんだあいつ!さり気なく混ざりやがって畜生ォォォ!!手汗がまた大量発生だボケぇぇ!!



とりあえず、この緑っぽい忍者服の集団は“六人”と自分に言い聞かせる。名前はどうでもいいから人数だけは覚えとかないと。



「やっと見つけたぞ天女様」

「天女サマー!ご飯行こっか!」

「先輩方、失礼しますね」



颯爽と現れた五年生は、六年生達と絡んでいた卑弥子を捕まえ、食堂へと向かった。



一瞬合わせた視線で、静かに火花を散らしながら。




 








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