ウワサの天女様(2/6)
「おはよー、ウワサの見えちゃう天女さん」
『…………』
何、こいつ。
昨日この部屋でくつろいでいた霊、………長いから田中でいっか。田中はストンと座り、暇そうに親指で顎を弄っている。
何しに来たんだよこいつ。
「まーまー、その握ってる塩を戻してよ天女さん」
私は、ほぼ無意識で何かあったら投げつけようともりもり君(塩)を握っていた。
「まいっか、長居はするつもりないし」
『…………』
何だ、何が狙い?
田中の出方を窺っていると、田中の切れ長の目と、私の目が合った。
「さっそくウワサになってるよ、天女さんが見えちゃってること」
私はその言葉に眉間に皺がよる。
確かに、昨日の時点で私を病人扱いしてる。あんまり知られたくないと思う時に限って、霊共の襲撃がくる。やっぱりバレたのは、油断してあの黒い忍者服の霊について逝こうとした時だ。
「因みに、ウワサになってるのはヒトじゃないよ。俺達の間、だよ」
『………え』
私の眉間の皺が、さらに深まる。
俺達、つまり霊共が気付いたと。よりによって、数珠を外さなきゃいけない今日に。
田中は、忠告、してくれてる?
「塩なんて盛るから逆に煽ったんだよ」
『なんで教えてくれるの、あんたも私を連れて逝きたいんでしょ?』
「んー、さあ、ね」
田中は、意味深に笑った。なんかヤな笑い方だな。
「あ、もう時間切れ。じゃあね、見えちゃう天女さん」
田中は障子をすり抜け、姿を消した。
なんだあいつ、霊のクセに親切だ。
っていうか霊と初めて会話らしい会話したかもしれない。そもそも会話どころか、連れて逝く気満々で襲撃して来るし、口開けば暴言だし。
こんな霊もいるんだ、意外と仲良くなれたりしてあはは。……まさか、そうやって油断させて連れて逝く気?!
こわっ!ここの霊こわっ!
私は再び気を引き締めた。それと同時に障子が開き、軽く悲鳴をあげた。
ビビらせんな忍者め!
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