盛りまくれ、塩!(3/5)
『………いちま〜い』
カラン、
『………にま〜い』
カラン、
顔の赤みが引いてから、鞄の中に常備している皿を取り出す。
一枚ずつ数えていくと、割れていた皿を除けて十二枚。
おそらく神隠しにあった時、最初にいた森に鞄が放り出されて中の皿が割れたのだろう。
『部屋の四隅と布団の周囲の分だから、まあ足りるか』
鞄の中に入っている物を確認していると、いつの間にか夕方になっていた。
ヤバいな、この部屋に入ってから一回も霊に襲われなかった。何この空間。もしかしてこの部屋天国?
「天女様、失礼します」
障子が開くと同時に、少し前の双子が現れた。そして双子の片方はご飯が乗った盆を持っている。
「お待たせしました。夕餉を持って来ました」
「今日のメニューは麻婆豆腐だ」
なるほど。さっき言ってた“ゆーげ”っていうのは夕食の事だったのか。
……にしても、なんで麻婆豆腐が忍者がいるような過去にあるの。しかも双子のもう片方はメニューつったぞ。カタカナでメニューって言いやがったぞ。
よくわからないままに料理を目の前に置かれる。
えっと、食べろってこと?
『…………』
毒、入ってないよね。
忍者って盛るよね、毒。
あまりにも出された食事を凝視していたせいか、名前忘れたけどなんかフワフワしてる方の双子の片割れの忍者が話かける。
「知ってると思うけど、おばちゃんの料理は凄く美味しいよ。それに毒とかは入ってないから安心して?」
なんか見透かされてる。
やだこわい双子こわい。
あと、ちょいちょい出てくる「知ってるでしょ」発言は何?
もしかして、私が霊を見えるって事を言ってんの?
やだよ、絶対言わない。
変な人扱いするじゃん。図々しいヤツはお祓いしてとか言ってくるじゃん。出来ねぇよ!むしろ私が祓われたいわ!
どちらにせよ、お腹が空いているのも事実で、タダで食わせてくれるってんなら遠慮する必要もないな。
私は小さく「いただきます」と出された食事を食べ始めた。
そして何だこのご飯。うますぎるヤバすぎるちょっと何コレうますぎる。
誰だよコレ作ったの。神か。仏か。お釈迦か。
私はついパクパクと食べていて、全く周囲を気にしていなかった。
『……………』
そして気付いた。
なんでこの双子ら去らないの?つかなんで私の食べるとこ見てんの?なんでずっと笑ってんの?こわっ!双子こわっ!
こうして私は、見られながら食事するという何ともいえない時間を過ごした。
『……ご馳走さまでした。ありがとうございますおいしかったです』
綺麗に完食し、空になった皿を渡すが双子は帰ろうとしない。
な、何よ。まさか食事の礼儀作法見てたのか?食べ方が汚いとか箸の持ち方がどうとか言うつもりなの?そうなの?
「天女様、口に麻婆豆腐が付いてるぞ」
『へ』
双子の片方が私に近付きクイッと顎を持ち上げると、親指で口元に付いた麻婆豆腐を拭い、ペロリとその指を舐める。
『あ、なんかすいません』
「いや、いいんだ」
おい、
おいおい、
おいおいおいおい!!!
まさかまさか、この双子私が口に麻婆豆腐付けてんの見て笑ってたのか。そうなのか。そうなんだな。
はっっっっず!!!!!
マジで恥ずかしっっっ!!!
これバラされちゃマズいやつだよね。女としては隠しておきたいやつだよね。
『あのすいません、麻婆豆腐を付けたまま完食したぜよっしゃってドヤってた事秘密にしてくれません?』
幸い、この失態を見られたのはこの双子のみ。きっと大丈夫、この双子の口が軽くなければ。
「え、あ、はい。言いませんよ」
「……………」
何その微妙な反応。
私の麻婆豆腐を拭いてくれた方の双子に関しては、若干眉間に皺が寄ってる。
え、なに、気に障ること言った?
確か、さっきもこの双子の片方が不機嫌っぽくなったよね?何だよ、何が不満なんだ。
でも今言わないって言ったよね。うん言った言った。これもし嘘だったら霊仕向けるかんな。多分その前に自分がやられそうだけど。
『じゃあお願いします、ご飯ありがとうございましたそれではさようなら』
私はぺこりとお辞儀して、さり気なく遠回しに「出てけ」と言った。
だってなかなか去らないし。
思いが通じてか、双子は何かあれば呼んでくれと言って去って行った。
ふう、よかった。
私は満腹になったお腹をさすり、再び部屋の隅に座り込んだ。
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