僅かな変化4 (4/4)
さっきの子の雰囲気、シリウスそっくりだったなー!あの小生意気な感じとか本当そっくり!
それよりまずは、キハチローに仕返ししなきゃね!
マグルに怪しまれないような初歩的なヤツなら大丈夫でしょ。こんな悪戯は魔法界じゃビギナーレベルだもんね!
『ハーイ、キハチロー』
「……訳ありの通行人」
穴を掘っていたキハチローが作業を止め、のんびりと振り向く。若干面倒くさそうな顔に見えるのは気のせいだと思いたい。
「……………」
『…………?』
ザック、ザック。
キハチローは、再び穴を掘り始めた。
『いやいやいや!ちょっと待ってよ!』
なんで何事もなかったかのように穴掘り始めてんの?!今あたし話しかけたじゃん!
「…………なに」
『いやいや、「なに」じゃなくてさー、そこはハーイとか返さない?』
「はーい」
『何か違うっ!!!』
もう!!
キハチロー意味わかんない!
とにかく仕返しだけして、ドイ先生に見つかる前にさっさと去る!
『おおぉっと!』
あたしは、盛大に転ぶ。
もちろんワザとだ。
『あいたたた、転んじゃったー』
あたしの手には、魔法界で定番のくっつき薬が塗ってある。
これでキハチローが転んだあたしに「大丈夫?僕の手につかまって」と言えばこっちのもんだ!
…………あれ、待てよ。
キハチローがそんな事してくれる?
ザック、ザック。
キハチローは、再び穴を掘り始めた。
『いやいやいや!!ちょっと待ってよ!!』
目の前で転んだ人を無視しちゃうの?!それはダメでしょ!
「…………なに」
『いやいや!「なに」じゃなくてね?そこは大丈夫?とか返さない?』
「僕は大丈夫」
『キミじゃないよ!!』
もう!!!
ホントわけわかんない!!
『ほら!女の子が転んだんだから手を貸す!!ほら!!』
あたしは、無理矢理キハチローの手を掴んだ。
あたしと手を繋いだ時点で、キハチローの手にはくっつき薬が付いたという事だ。
抑えきれない達成感に、口元がついつい笑ってしまう。
『へへ、仕返しだよキハチロー』
「………?」
あたしはパッと起き上がり、その場を後にした。
悪戯完了っ!!!
* * *
またあの訳ありの通行人と会った。
相変わらず、目がきれいだった。
目だけね。
ひとりでべらべら喋って、ひとりで勝手に転んで、起こせと文句を言われた。
変な人。わざと転んだくせに。
僕は、とりあえず穴を掘ろう。
ザック、ザック。
しかし、また文句を言われた。
『ほら!女の子が転んだんだから手を貸す!!ほら!!』
訳ありの通行人が、無理矢理僕の手を掴む。
なんかこの人めんどくさい。
『へへ、仕返しだよキハチロー』
「………?」
僕の手を掴んだ瞬間に、訳ありの通行人は悪戯が成功した子どものような表情になる。
よく分からないけど、勝手に納得して勝手に去って行った。
変な人。
まあ、どうでもいいから穴掘りしよーっと。
それからしばらく穴掘りをしていたら、タカ丸さんが現れた。
いつの間にか昼になっていたらしい。
おやまぁ。
そういえばお腹空いたかも。
「じゃあ行こっか喜八郎くん」
タカ丸さんの後ろに続いて、食堂へと向かう。今日は邪魔されずにご飯が食べたい。
「………?」
何となく、本当に何となく鋤を持ち替えようしたが、手が離れない。
「……なんだこれ」
今までずっと鋤を握っていたから気付かなかったが、手が鋤からピクリとも動かない。
「……………」
なんだこれ。
天女派に接着剤でもつけられたのだろうか。
多分それはない。
ここしばらくは、天女にも天女派にも会っていない。
同室にだって、会っていないんだから。
……まあ、どうでもいいけど。
それにしても、変なのー。
さっき訳ありの通行人に手を掴まれた時は離れてたのに。
…………あ。
あの訳ありの通行人、確か仕返しがどうのこうのって言ってたような。
…………………あいつか。
「タカ丸さん、僕用事が出来たから後で行くね」
「え?うんわかった〜」
で、訳ありの通行人どこ。
こうして、僕の昼餉はまた邪魔されることになった。
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