僅かな変化3 (3/4)
出るなだってさー。
もう、わかってるクセにー。
土井が去った後、少ししてから障子を開ける。頭だけ出し、キョロキョロと周囲を確認する。
しめしめ、誰もいない。
まずはキハチローを探さなきゃね!昨日の仕返しがまだだから!
そろりと部屋を抜け出し、昨日落ちた落とし穴付近に向かう。
どーせ、穴を掘ってるはずだよね!あんだけ落とし穴があるんだもん。きっとキハチローは落とし穴小僧って異名があるに違いない。
部屋を出てからしばらく歩いていると、前方から四人組が歩いて来た。
あ、また人避けの呪文をかけ忘れてた。
………ま、いっか!
『こんちはー』
そのまま四人組を通り過ぎようとしたら、いきなり腕を掴まれた。
『わっ、ちょ、何?!』
腕を掴まれるなんて思ってもみなかったので、思いのほか驚いてしまった。
「どちら様ですか」
ふわふわとした髪の忍たまが、掴んだ腕に力を入れる。いたた、ちょっと痛いよ。
『あ、あたしは、訳あ』
訳ありの通行人と言おうとして、口を閉じた。よく考えてみたら“訳ありの通行人”なんて怪しさマックスじゃないか。よし、改名しよう!
印象に残りにくい感じだけど、カッコいい感じが良いなー。うーん、あ、時の旅人なんてどう?良いじゃん!うん!ミステリアスな感じが良いじゃん!!
『名乗るほどじゃないけどね、あたしはさすらいの時の旅』
「曲者か」
なっ、
なななななっ、なんですって!!
くせーものっ??!!
「どうする?」
「羽衣さんの害になりそうなモノは、消すのだ」
「俺も賛成だ」
ふわふわとした髪の忍たまと睫毛が長いイケメン忍たま、頭がボサボサな忍たまが話を進めていく。一歩後ろでは、髪の毛がちょっと不思議な感じの忍たまが、貼り付けた作り笑みで成り行きを見ている。
『ちょっと手放してよ』
何なんだ!さっきから!
人のことをクサい者呼ばわりしたり、消すとか恐ろしいこと言ってくれちゃって!!
「お前みたいな怪しい奴、放す訳ないじゃないか」
くっ、この人、優しそうな顔してるけど嫌なヤツだ!!
『一応お客なの!そんなに気になるならドイ先生に聞いてみなよ!』
ぶんっと腕を振って、掴まれいた手を無理矢理解いた。
『ヤな感じ!!べーっだ!!』
あたしは彼らに向けて舌を出し、走り出した。
* * *
いつからだったか、
私が雷蔵やハチ、兵助や勘右衛門たちから離れたのは。
それもこれも、すべて天女とかいうふざけた女共が現れるからだ。
自然と眉間に皺が寄る。
そんな時、前方から歩いて来た見慣れぬ女と目が合った。
『あーっ!さっきのヤな奴……あれ?なんか違うな、もしかして双子?』
前方から現れた女が私を指差して騒いだ後、顔を覗き込んできた。
……この女、確か先日医務室で見たもう一人の天女疑惑の女じゃないか。
それより……、今“双子”と言ったな。この女、雷蔵に会ったのか。まさか!雷蔵にあの妖術を、
『もう聞いてよ!キミの相方にクサい者呼ばわりされたんだけど』
「……は?……臭い者?」
『あたしクサくないし!ちょっと嗅いでみてよホラ!』
「ちょ、やめ」
何だこいつ!何で匂いを嗅がそうとするんだ!
それに臭い者って何だ!
抱き付くような形で突進して来たこの女は、執拗に匂いを嗅がせてくる。余程「臭い」と言われたことが癪に障っていたようだ。
それよりも、近いっ!!
「くっ臭くないから離れろ!」
『でしょ!クサくないでしょ!』
ようやく自分から離れたこの女を睨み付ける。
『…………』
「な、何だ」
睨み付ける私を、逆にジーッと見つめてくる。
『……何か似てる』
「……は?」
それは雷蔵にということか?当たり前だ、私は雷蔵の顔を借りているのだ。
『キミの雰囲気、あたしの友達にそっく……あーっ!!』
「!」
喋っていたかと思えば、いきなり視線を外して叫ぶ。……少し驚いてしまったのが悔しい。
『キハチロー見っけ!あたし仕返ししなきゃいけないから、じゃあね!』
そう言って、もう一人の天女疑惑の女が走り去って行った。
……嵐のような女だった。
とりあえず、先輩方に報告しておこう。
私は、走り去る女の後ろ姿をじっと見つめた。
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