仕返しと遭遇10 (10/11)
「また髪の毛触らせてね〜!」
『うんいいよー!じゃあタカマルまたねー!』
走り去って行く彼女に、振っていた手を止める。
昨日、見た子だった。
食満君に呼ばれて、医務室で反天女派の話し合いをしていた時に飛び込んで来たあの子。
訳ありの通行人さんで、一週間だけここにいるらしい。
昨日見た時から、髪の毛が綺麗だと思ってたんだけど……。あの雰囲気だったから、さすがに彼女に話しかける事は出来なかった。
もし次会えたら、髪の毛を結ってみたいな〜と思っていたんだよね。
最初天女様かと思ったけど、今いる天女様たちみたいなモヤモヤ感はなかった。
天女様の髪の毛も綺麗なんだけど、染めてるからちょっと傷んでるんだよね。
それに比べて、あの訳ありの通行人さんの髪の毛は綺麗な艶のある黒髪で、サラッサラのツヤッツヤだった!
あれは凄いよ!ちゃんとお手入れしている髪の毛だった!昨日はお風呂に入りそびれちゃったって言っていたけど、それが気にならないくらい綺麗な髪の毛だった。
あと、チラッとしか見なかったから分からないけど、目が青かったような気がしたんだよね。普通は黒だよね?気のせいだったのかなぁ?
ところで僕、何を考えてたんだったけ?あ、そうそう。もう一人の天女様のことだ。
僕の予想なんだけど、あの訳ありの通行人さんが天女様と勘違いされたんじゃないかなぁ?
うーん、僕は新しい天女様がどうこうというよりも、またみんなが仲良しに戻ってくれたらそれでいいんだけどな〜。
あ、でもその原因が天女様なのか。うーん、なんだかややこしいね。
* * *
ヘムヘムのカーンッという鐘の音で午後の授業が終わった。
教室から出て、ふと窓の外に目をやると、自称魔女の天女が歩いていた。
また出てる!
休み時間になったら、長屋に様子を見に行くとまで言ってあったのに!あの自称魔女の天女、のん気に歩いてる!
忍たま達に見られる訳にはいかないので、あの自称魔女の天女の進行方向に先回りしたら、案の定逃げ出した。
ちょこまかと逃げ回るが、まだ学園内の地形は把握していないのでこちらが断然有利。うまく人気のない方へ誘い込み、先回りして捕獲した。
『うぎゃーーっ!捕まったぁぁ!』
じたばたと暴れる自称魔女の天女。全く、何故おとなしく長屋で待っていられないんだ。
もう逃げないように腕を掴み、長屋へ連れて帰っていたら、自称魔女の天女が「そういえば、タカマルが怒ってたよー」と言った。
な、この自称魔女の天女、タカ丸に会いに行っていたのか?
油断、ならない。
長屋に着き、今度こそ出て行かないように伝えた。風呂の説明で山本シナ先生来る事になっているのである。
「はーい」と相変わらずのん気な自称魔女の天女を残し、タカ丸を探して私は走り出した。
何も、何もなかってくれ!
「タカ丸っ!!」
意外とすぐに見つける事が出来て安心する。しかし、すでに時遅く、天女の術にかかってしまっているかもしれない。
「あ、土井先生〜」
こいつものん気だ!
ああああ、いっ胃が痛いいいぃ!タカ丸めっ!人がどれだけ心配したと思って!!
「このっ!何でそんなにのん気なんだ!」
「いっいひゃいれす〜」
タカ丸の頬をつねり、ぐぐっと引っ張る。このタカ丸めっ!
でも、見た感じでは術にかかっている雰囲気はない。無事だったか……
タカ丸の頬から手を離すと、タカ丸は「うう痛いよ〜」と頬をさすっている。
「それよりタカ丸、怪しい奴に会わなかったか」
「怪しい奴ですか〜?」
タカ丸は、うーんと悩んで見なかったと答えた。どういう事だ、あの自称魔女の天女と接触したんじゃないのか?
「あ、そうだ〜。怪しい奴には会わなかったけど、訳ありの通行人さんに会いました〜」
「……そうか、わかった」
変とか怪しいという言葉を聞かない限り、って、ん?
訳ありの通行人?確か昨日、綾部も言っていたような。あれ、ちょっと待て何か変だ。
「タカ丸、その訳ありの通行人というのは、黒い布を羽織った女の子か?」
「えっ?そうですよ。よくわかりましたね〜」
あいつぅぅぅぅううっ!!!
訳ありの通行人だとぉぉぉっ?!!
胃が!私の胃が!!
爆発しそうだぁぁぁっ!!!
私が胃の辺りを押さえて悶えていると、タカ丸がポツリと呟いた。
「あの人、なんだか不思議な人ですね」
不思議な人、か。
そうだな、不思議な人だ。
だって、こんなに、
「それに、なんていうか、土井先生が前の土井先生に戻ったみたいっていうか、」
「前の、私、か」
そうか、変わってしまったのは生徒達だけではないんだな。
「そんなことより土井先生、髪の毛が酷いです。ちゃんとお手入れして下さい。毟りますよ」
「あ、ああ、わかった……」
“そんな事”程度じゃないんだけど、タカ丸、お前はブレないな。
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