仕返しと遭遇6 (6/11)




 
 
 
今日の僕も、いつも通り不運絶好調だ。



午前中は授業がないから厠の落とし紙を補充していたら、躓いてバラまいちゃったし、



鳥の糞が落ちてきてたのを避けたと思ったら、別の鳥の糞が落ちてきたし、



綾部が掘ったであろう落とし穴の目印があったから、避けようとしたら踏んづけていた落ち葉に滑って、



「うわああぁぁっ!!」



別の穴に落ちた。



ああ、朝から不運だ。



『え、ぐえぇっ!』



え?先客?



どしゃっ!という音と共に、誰かの上に落ちた。



「わっ!ごっごめんね!!大丈夫?!」

『だ、だい、じょうぶ』



忍たまでいう三・四年生くらいの年下の少女を下敷きにしてしまった。



………ゴメンナサイ



これ絶対ケガさせちゃったよ、僕保健委員なのに。



ゆっくり起き上がった彼女は、昨日、医務室に駆け込んで来た子だった。



「あ……、昨日の」

『へ?』



もう一人の天女様かもしれない人だ。確認したかったから、空から来たのかと聞いてみたが、否定された。



とりあえず、ここから出た方が良さそうだ。今回の落とし穴はそこまで深くないから、クナイなしでも出られるだろう。僕は穴から飛び上がり、中の彼女を引っ張り上げた。



『ありがとー!』

「!、どういたしまして」



どきり、とした。ここしばらく見たことのない、太陽みたいに綺麗な笑顔をされたから。



つい、釣られて自分の顔も緩んだ。



こんな風に自然に笑ったの、久し振りかもしれない。



僕が下敷きにしてしまったから、怪我をしていないか尋ねると、逃げた。



……これ、怪我してるね。



「待って」って言ってるのに、あまりにも逃げ回るから無理矢理捕まえた。この子の逃げ足やたら速いな。



『もう!怪我ないってば!その目で見てみなよ!!』



そう言って、彼女は羽織った黒い布をバッと開いた。目に入ったのはほとんど露出された足が、って、えええぇぇぇええっ!!?


 
怪我はないと主張されるが、露出度が高すぎる服に目のやり場が困ってしまう。



……それに、この服、



今までの天女様たちの着ていた物と似ている。やっぱり、この子がもう一人の天女様なのだろうか。



そんな事を考えていたら、彼女は大暴露をした。え、捻挫?この子捻挫してるの?



ちょっと待って、この子捻挫してるのに走り回って逃げたの?え、ちょ、馬鹿なの?



医務室に連れて行って手当てしたいけど、これ以上歩かせて捻挫を悪化させたくないから背中に乗るよう促した。しかし、歩くと言って聞かない。もう頑固!



仕方ないから、無理矢理横抱きにしたら大人しくなった。初めからこうすればよかった。



僕の腕の中で、真っ赤な顔を両手で覆っている姿に口元が緩んでしまった。



ちょっと可愛いなって思ったのは内緒だ。









* * *










彼女を医務室まで運び手当てするが、思ったより軽症だった。いや、軽症というか何か違和感がある感じだ。



それにしても、綺麗な肌だ。足の筋肉も鍛えてる感じはないし、手だって何もした事のないお姫様の手みたいだ。



天女様のようで天女様ではないような不思議な子。



処置を終え、薬などを片付けていると、先ほどの塗り薬を褒めてきた。僕が作ったと言えば、「へぇー、授業で作ったんじゃないんだー!」などと言っていた。



この子は薬の知識があるのかな?



少し気になり、質問しようとしたら話題が変わった。天女様の話へと。



この子は天使などと言っているが、天女様は天使なんかじゃないよ。そんな、モノじゃない。



笑えているだろうか、僕はもう天女様のことなんて考えたくない。惑わされたくない。惑わされた級友たちを見たくない。もう、僕たちを、



『よしっ!そんなキミには、ハニーデュークスの“めちゃうまチョコ”をあげよう!』


 
いきなり立ち上がった彼女は、腰のあたりにぶら下げている巾着みたいな入れ物を漁りだした。



あれ?巾着みたいな入れ物に突っ込んでいる手が、その、突き抜けているくらい入ってるんだけど。あれ?僕の目がおかしいのかな?



目をゴシゴシと擦っていたら、彼女が「はい!どーぞ!」と小さな包みを渡してきた。



「……あ、ありが、とう」



受け取ったはいいが、この“めちゃうまちょこ”とは何だろう。めちゃうまっていうのは多分“滅茶苦茶美味い”って意味だと思う。けど“ちょこ”というのは何なんだろう。



毒ではないと思うのだけど……



しばらくそれを見つめていると、毒はないと言われてしまった。何だか見透かされた気分だ。



彼女はへらへらっと笑って医務室から出て行った。さっき見た太陽みたいな笑顔ではなく、少し悪戯めいた無邪気な笑顔だった。



僕は包みを開き、思い切って食べてみた。



………おいしい。



いや、冗談抜きで。



ふわりと口の中に甘さが広がる。飴よりも柔らかく、すぐに溶けてしまった。こんな甘味食べたことないし、もしかして高級品なんじゃないだろうか。







不思議な女の子。



君は、誰なんだろうね。



 







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