仕返しと遭遇5 (5/11)
『……………くっ、』
ちっちくしょう!格好つけて去ったのにまたキハチローの落とし穴に落ちてしまった。
しかもキハチローのやつ、去り際に「だいせいこう」とか言ってくれちゃって!
むきぃーーーっ!!
キハチローめ!覚えてなさいよ!
立ち上がろうとすると、ピリッと足首に痛みが走った。
スキップしながら落ちたから、足首捻っちゃったんだ。そう考えると今のあたし、かなり恥ずかしいなコレ。
まあ捻った程度なら関係ないか、どうせ“すぐ”治るしね。
「うわああぁぁっ!!」
『え、ぐえぇっ!』
上から人が降ってきた。
どーん、って感じで。
それよりも、は、早くどいてー!
出る出る!何かが出るぅっ!!
「わっ!ごっごめんね!!大丈夫?!」
『だ、だい、じょうぶ』
……出るかと思った。さっき食べたオニギリとかミソスープとか、出たらいけないモノとかが出ちゃうかと思った。
どうやら彼もキハチローの被害者のようだ。でもこれ、落とし穴じゃなくて今はただの穴なんだけど。何でこの人落ちてきたの?
「あ……、昨日の」
『へ?』
昨日って何だろう。んー、でも何となく見たことあるようなないような……
「あの、もしかして空から……?」
『え、空からは来てないよ。ていうか空から来る人なんているの?それすごいね!あ、もしかして天使?!』
この世界すごい!空から天使が舞い降りて来るんだ!見たい!
「あ、いや、変なこと聞いてごめんね?とりあえず出ようか」
『え?どうやっ……わーすごっ』
ひょいっと穴から飛び上がる彼。そういえばキハチローも飛び上がってたや。
「はい、掴まって」
先に上がった彼が、手を差し出してくれた。なんかこの人いい人だ!
軽く引っ張り上げられる。すごいなー、忍者って力持ちなんだ!
『ありがとー!』
「!、どういたしまして」
うん、笑顔も優しい人だ。
「怪我はない?僕が下敷きにしちゃったから」
『あ、うん、ないよー!あははー、それじゃあね!』
「えっ、ちょ、」
心配そうに問い掛けてくる彼を軽く流し、走り去る。何か逃げなきゃいけない気がした。というか、ドイ先生と同じようなニオイが……
「ちょっと君!逃げるってことは、もしかして怪我してるんじゃないの?!」
おっ追いかけて来たァァァァァ!!
やっぱりドイ先生と同じタイプだ!これ捕まったらダメなヤツだ!!
「ちょっと待って!」
『怪我してないっ!』
「じゃあ何で逃げるの!」
しつこいィィィ!
この人もしつこいィィィ!!
もうヤダぁぁぁぁぁっ!!なんで忍者ってこんなにしつこいこいのォォォォ?!!!
ガシッと手を掴まれた事により、追いかけっこは強制的に終了した。
くそう、捕まってしまった。こうなったらヤケクソだ!!
『もう!怪我ないってば!その目で見てみなよ!!』
バッとローブを開き、体を見せる。ニーハイを履き忘れていたので、足はそのままミニスカから露出されている。ついでに右袖も捲り、腕も見せた。
「えっちょ、まっ、わわわ…っ!」
予想通り朝のドイ先生みたいな反応で、真っ赤になり顔を背ける彼。
どうだ参ったかコノヤロウ!
『ほら怪我なんてないでしょ!捻挫しただけなんだから平気だっての!』
顔を背けていた彼がゆっくりと振り向いて、あたしと目がバチリと合った。
「……捻挫?」
『……やべ、今のナシ』
しまった、口が滑った。
「ちょ、君、捻挫した足であんなに走ってたの?!」
『あの、えーっと、』
どうしよう!言い訳が思い付かない!
「とにかく、医務室に行くよ」
『で、でもー』
「連、れ、て、行、き、ま、す!はい、乗って」
彼は、あたしの前で背を向けてしゃがんだ。えっと、これってまさか、
『えっ!おんぶ?!いっ、いいよ!逃げないで歩くから!』
「乗って」
『だ、だから……』
「早く」
『やだ!!歩くの!!』
「…………」
おんぶなんてやだよ!つか捻挫だってとっくに……、
『うひゃあっ!』
あまりにも話が進まないので、横抱きされるヒナ。
『えっ、やっ、やだハズい!!お姫様抱っことか憧れてたけど意外とハズい!!』
今度はヒナが顔を真っ赤にし、両手で覆った。
「おとなしくしててね」
そのままあたしは、医務室に運ばれて行った。
もうやだ、恥ずかし過ぎて死ねる。
* * *
医務室に着くと、彼はテキパキと捻挫の治療を始めた。
忍者ってすごいなー。同い年くらいなのに、こんな怪我の手当てを魔法なしで出来ちゃうんだ。なんか魔女じゃないマダム・ポンフリーみたい。でも優しい感じはチョッパーみたいかも。
あ、捻挫してるんだから痛がらないと。
『あいたたた、』
……バレてない?
痛くないのバレてない?
うう、何か騙してるみたいでヤダなー。まァ、騙してるんだけどさ。あたしに手当てなんて必要ないんだよ。実際、捻挫した足も治ったし。包帯巻いてるって事は、多分気付かれてないと思うけど。
にしても、さっき塗ってた薬……。マグルなのにこんな高度な薬作れるんだ。やっぱり忍者ってすごいっ!忍者だから、忍者薬学とか?
『この薬、すごいね!キミが作ったのー?』
これでも魔法薬学はセブのお墨付きなのだ!そこらの魔法使いよりは熟知してるのだよ!えっへん!
「え?あ、うんそうだよ。僕は保健委員だからね」
『へぇー、授業で作ったんじゃないんだー!』
なーんだ、忍者薬学はないのか。じゃあ、すごいのは保健委員か。
『あ、そういえば!ここって天使が舞い降りて来るんでしょ?キミは見たことあるの?』
「……天使?えっと、天女様の、ことかな?」
『天女……』
またこのワードだ。だから天女って何なのさ。
「時々、空からいらっしゃるんだ」
『……ふーん』
何か、急に笑顔が曇ったような。何となく違和感のある笑顔だ。
……前のリーマスみたい。
あたしが見たい笑顔はそんな笑顔じゃなくて、さっき見せてくれたような自然な笑顔なのに。
『よしっ!そんなキミには、ハニーデュークスの“めちゃうまチョコ”をあげよう!」
腰元のポーチを漁り、買いだめして保存魔法をかけているお菓子ゾーンを探す。あれー、確かこの辺に……あった!
キャンディのように包まれたチョコレートを二つ取り出す。
『はい!どーぞ!』
彼の前に、その一つを差し出した。ケチとか思わないでよ?このチョコって一個売りで結構高いんだから。
「……あ、ありが、とう」
彼は遠慮がちに受け取り、包みを見つめている。
きっと忍者だから毒とかを疑ってるのかなと思ったあたしは『あ、毒なんかないよー』と、笑いながら医務室から出て行った。
ドイ先生とかさっきの彼とかも含めて、なんていうか、今までの世界の中で一番警戒されてる気がするなー。
そんなに警戒しなくてもすぐに出てくし、あたしはただ、みんなに笑って欲しいって思ってるだけなのに。
少し沈んだ気分を変えるため、自分用のチョコをパクリと口に放り込んだ。
んーっ、おいっひー!
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