魔女と天女の計画7 (7/7)




 
 
 
土井は、夕餉と布団を抱えてヒナのいる長屋へと向かっていた。



「……………」



天女が忍たまと喋っている内に、食堂のおばちゃんに作ってもらっていた自称魔女の天女用の夕餉を取ってきた。



恐らくあの頭の悪い天女なら気付かないだろうが、今後も気を付けなければ。





「……天女様」





………よし、気配はあるな。





「失礼します」





スッと障子を開けると、自分が去った時と同じ位置で寝ている自称魔女の天女がいた。





………うん、ちゃんと居るな。





土井は、ヒナを起こさないように、少し離れた場所に夕餉のお盆を置いた。



「…………」



おとなしくしているなら、それでいい。逆に起きていると、また脱走するだろう。



必要以外は関わりたくない。



私も一度、天女に惑わされた身である。






………本当に情けない。






あれ以降は天女に耐性が出来たようで、監視や処理に徹底している。



今回は二人の天女という異例の事態になってしまったが、やる事は変わらない。



ただ、出来ていた筈の耐性を消し去ってしまうほど強力な天女が現れた事は誤算だった。



もし、この自称魔女の天女にもその力があったとしたら………









持ってきた布団を敷き、寝られる準備をしている時、ふと自称魔女の天女の寝顔を見る。





「おとなしくしていれば、ただの可愛らしい少女なのに……」






何気なく呟いた言葉に、ハッと我に返る。






…………しまった。






どうやら今回は、私も天女に毒されてしまっているようだ。






これ以上、深入りして惑わされたりしないよう気を付けないと。






土井は、更に気を引き締めた。









* * *









 
『ん………ん?』



目が覚めると、いつの間にか空には月が輝いていた。



『あちゃー、寝過ぎたかも』



グッと体を伸ばす。床で寝ていた為か、ほんの少し体が痛い。



ヒナが視線をずらすと、敷かれた布団とお盆に載せられた食事が目に入った。





ドイ先生かな?




よくよく考えれば、この世界に来てから何も食べていない。



そう思った瞬間、ぐうっと腹の音が鳴り響いた。



『………………』







恥ずかしっ!!





だだだ誰もいないよね?!!





明らかに自分しかいないが、思わずキョロキョロと周囲を確認した。





……………、





とりあえず食べよう。





ヒナは、冷めてしまった茶碗に手をかけた。



本当言うと“ハシ”を使うのは苦手だ。小さい頃、日本に遊びに来た時に母に教えて貰ったきりである。



不格好ではあるが、卵焼きをなんとかハシで摘み口へと運ぶ。



『!……うっまー!』



何コレ!すっごい美味しい!!



和食はあまり食べる機会がなく、有名な“スシ”とか“スキヤキ”を食べたくらいである。



日本人の血が流れているせいもあるだろうが、和食が物凄くしっくりくる。そして美味しい。



時間はかなりかかったが、全部完食した。うん満腹満腹。



食後だという事もあるが、完全に目が冴えてしまった。



ヒナは、障子を開けて満天の星空を見上げた。





『…………綺麗』







―――ヒナ先輩、お久しぶりです。





ああ、そういえば、前回の世界でレギュラスと会ったんだった。



死喰い人になってたし、捕まると思ったけど、助けて貰ったんだよね。



レギュラスの奴、年下の癖にやたら魔法の使い方が上手いんだもん。



“あれ”の時はヴォルデモートに心酔していたから冷たい態度だったけど、本当は優しい子なんだよね……まあ極度のツンデレでひねくれ者だったけど。



それにしても、ジェームズとリリーが結婚したとはねー。



……はは、まいった。何だかお似合い過ぎて嫉妬も出来ないよ。



シリウス達も不死鳥の騎士団に入って頑張ってるらしいしね。



あたしがいないくても、世界は進んで行っちゃうんだもんなー。



………レギュラスだって、






 
―――僕は闇の帝王の分霊箱を探しに行きます。恐らく僕は、







『………死ぬなんて言わないでよ』







―――先輩、あの時は助ける事が出来なくてすいませんでした。







もう謝らなくていいよ。だから、だからさ、その続きは言わないでよ。







―――どうか、逃げ切って、僕の分も生きて下さい。







何故、あんなに綺麗に笑えたの?


ねえ、レギュラス……







―――あ、それから……







『……ふぇっ……、……じぇ、むず……しりう……、りぃます………ぴぃた……、りり……ひっく……せぶぅ…』



ああ、ちくしょう。



こっちの世界では泣くまいと思っていたのに……







―――兄さん達から預かりました。







あの日、レギュラスから渡されたネックレスをギュッと握り締めた。



『…れぎゅ……ひっく』







―――僕、実は先輩の笑顔好きだったんですよ。……言っときますけど笑顔だけ、ですよ。だから、







『あたし、ひっく……笑、てるから、ね……へへ』 







―――貴女は笑っていて下さい。







そうだ、泣く暇なんてない。



ジェームズ達が不死鳥の騎士団で戦うなら、あたしは逃げて戦うんだ。あたしが捕まらない事が勝機に繋がるなら、弱虫とか臆病者とか、何と言われようと逃げ回ってやる。



そうしたら、またみんなで馬鹿みたいに騒いで飲み明かすんだ。



あたしが出会った人達の事も、巻き込まれた事件も、全部全部話して、ジェームズ達の話もいっぱい聞くの。



次のクィディッチ・ワールドカップには、またみんなで一緒に観戦しに行こう。






あたしはローブの袖で、ゴシゴシと目を擦った。






『よし!寝よう!』



自分に言い聞かせるように、少し大きめの声を出した。



どうも、世界を移動した直後は感傷に浸りやすい。




ヒナは羽織っていたローブとニーハイを脱ぎ捨て、近くにあった布団へとダイブした。



『あ、お風呂入ってないやー。うーん仕方ない、明日教えて貰おっと』



とにかく、こんな日は寝よう。



あれこれ悩むなんてお前らしくないってジェームズ達に笑われちゃう。





だってあたしは、



悪戯仕掛け人の宿敵、悪戯小娘なんだから!!











嵐の前の静けさ


(後半は静かだったな…)
(さて、明日は何しよっかなー)


少しじっとしてみる


 







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