魔女と天女の計画4 (4/7)
土井は、学園長に報告した帰り道を、胃の辺りを押さえながら歩いていた。
原因の学園長は「今度の天女様は随分お転婆じゃのう」なんて、のん気な事を言いながら茶を啜っていた。
……………い、胃が痛い。
私が世話係になった時、山田先生は「どうせ一週間しかいないのだから放って置けばいい」と言っていたが、どうも割り切ることが出来ない。
山田先生はこの自称魔女の天女より、今回の天女を警戒している。
確かに、一週間で出て行くならこんなに気にしなくても良いのかもしれない。
……いや、あの感じ、人の言う事を聞かない感じ、は組に似ていてつい気になってしまう。
天女の件があってから、妙に大人しい私のクラス。
胃が痛くなるのは、は組から天女関係へと変わった。
それも、気分の悪い痛み。
吐きたくなるような気持ち悪さ。
しかし今日、自称魔女の天女に振り回されて痛んだ胃は、天女が現れる前の痛みだった。
………別に、痛みマニアではないが、変な感じだ。
そして、きっとまた脱走しているに違いない。
…………………胃が痛い。
そうこう考えていたら、いつの間にか自称魔女の天女がいる部屋まで辿り着いていた。
「……………」
け、気配が、ある……
土井はそろりと障子を開けた。
「……………」
寝ている。
彼女が羽織っている黒い布にくるまって眠る姿は、猫が丸まっているみたいに見える。
丁度、窓から日が当たっているところで丸まって寝ている。
この日向ぼっこしている感じ、本物の猫みたいだ。
…………ちょっと可愛いかも、ゲフンゲフンッ!!
いや、今のなしだ。
猫は可愛いから、つい、だ。
「うん、気のせい気のせい」
土井が思わず声を出したので、ヒナがもぞもぞと起き上がった。
「天女様、おはようございます」
『………………』
目が開いてない。
彼女は、おぼつかない足取りで私の所まで歩いて来て、くいっと服を引っ張る。
『ん、トイレ、どこー?』
まだ目は開いていない。
……………何かちょっと可愛いかも、ゲフンゲフンッ!!
なし!今のもなしっ!!
気のせいだ、気のせい気のせい。
それより、そんな事より今の問題は「トイレ」が何なのかという事だ。
………といれ、確か他の天女も口にしていた言葉だ。
多分、厠……だと思うんだが。
自称魔女の天女を近くの職員用の厠に連れて行くと、どうやら合っていたらしい。
“トイレ=厠”
うん、覚えておこう。
* * *
厠に連れて行った後、自称魔女の天女は大人しく部屋まで戻って来た。
…………怪しい。
さっきよりは目は開いているが、まだ寝ぼけているようだ。
私の服を掴んでちょこちょこと後ろを歩く彼女は、迷子の子どもみたいだ。
…………………怪しい。
自称魔女の天女は、部屋の中に入ると、お盆に重ねられた空の皿を持ってきた。
『お料理………ごめんなさい。お皿……………どーぞ』
それだけ言うと、また先程の位置に丸まって横になった。
「……………」
手渡されたお盆と皿。
私がこの部屋で落として割った皿だ。
破片を繋げたという訳ではなく、新品同様に直っている。
「…………魔女、か」
どうやら今度の天女は、本当に不思議な力を使えるらしい。
あと少しで元に戻ろうとしていた日常を、一瞬で消し去って狂わせた“天川羽衣”。
不思議な妖術を使う、警戒すべき未知の少女“黒峰ヒナ”。
どちらにせよ油断出来ない。
土井は寝息を立てる少女を横目に、静かに立ち去った。
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