魔女と天女の計画3 (3/7)




 
 
 
午後は授業もないし、作りかけの薬があったのでそれの続きをしていた。



すると、障子が開き、あんまり聞きたくない天女様の猫なで声が聞こえてきた。




どうやら、指を切ったらしい。



怪我をしたのなら仕方ない。




僕は、至近距離に座る天女様の怪我した指を手に取った。




こんなに近くに座らなくてもいいのに……、それに天女様からいつもの甘ったるい香りがする。





ああ、この臭いはちょっと……




伊作は「うっ……」と吐きそうになるのを堪え、指の血を拭き取り消毒する。



最後に包帯を巻いていると、天女様が上目遣いで見つめてきた。



「ありがとォ。………伊作クンは優しいよネ、でも、みんなに優しいから妬いちゃうなァ」








……………鬱陶しい。






もう、媚びた台詞は聞き飽きた。





きっと、六年生全員が自分に夢中じゃないのが気に入らないだけだろう。




僕が天女様に夢中になったように接すれば、此処から出て行ってくれるのか?



「すみません天女様、怪我人は放って置けなくて……」



僕は、とりあえず申し訳無さそうに下を向いた。



「こっちこそごめんネ、でもそんな優しい伊作クンがスキだからいいの!」



少し顔を上げ天女様と視線が合うと、頬を桃色に染めて笑っていた。





「天女様………」





そんな顔は、何度も見てきた。




違和感たっぷりの、作られた表情。




吐き気がする。




僕は引きつった顔を見られないよう、下を向いた。




しばらくして、天女様はお礼を言って医務室から出て行った。



さっきまで薬草の匂いが充満していたのに、今は天女様の甘ったるい臭いが部屋の中を占めていた。









* * *









 
「善法寺先輩」



僕が換気をするため窓を開けていると、一年は組の猪名寺乱太郎が入り口に立っていた。



「ああ、乱太郎か。どうしたの?」






ああ、いつからだろう。




保健委員の後輩達に名字で呼ばれるようになったのは……




乱太郎が医務室に入ると、彼は少し眉間に皺を寄せた。



「……さっき天女様がいたから、この臭……ゴホン、この不思議な香りが残っているんだ」







つい「臭い」と言いそうになったが、頑張って飲み込んだ。



「………善法寺先輩」



乱太郎の声にハッとして我に返ると、悲しそうな顔をしてこちらを見ていた。



「……何?」



乱太郎の近くまで行き、目線の高さにしゃがんだ。



笑って返事をしたが、乱太郎は俯いたまま動かない。



「……善法寺先輩は、天女様のこと好きになっちゃったんですか?」









…………そうか、




君達も被害者なんだよね。




天女様に惑わされた僕達に振り回されて、怪我したり委員会も活動出来なかったり大変な思いをしたんだよね。





「………大丈夫だよ」





大丈夫、もう僕は惑わされない。





「好きじゃないから」





もう、人を好きになりたくない。






伊作は、安心した顔をする乱太郎の頭を優しく撫でた。






………もう一人の天女様。




もし今の天女様より厄介な天女様なら、もし今以上に学園を乱す天女様なら………














僕が、殺る。




伊作は、乱太郎を撫でていない反対の手を力強く握り締めた。




 







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