穴から始まる逃走劇7 (7/7)




 
 
 
「いないって言って!!」



いきなり入って来た少女は、ぶんぶんと音が鳴るくらいの勢いで周囲を見渡し、医務室の布団の中へ潜った。





………隠れた意味あるのかな。





こんもりと膨れた布団は、どんな嘘をついてもバレるだろう。



一体何をそんなに慌てて………




シュンッという風を切る音と共に土井先生が現れた。



今の少女と同様に物凄い勢いだ。



「どうしたんですか、土井先生」



僕は、あくまで平然と答えた。



丁度もう一人の天女様の話をしていたので、できれば先生達には聞かれたくない。



「善法寺、ここに誰か来たか?」



僕達五人を確認した後、土井先生は僕に視線を合わせて問いかける。






探るような目だ。






「………いいえ、誰も」



土井先生の視線が一瞬膨れた布団に向けられ、再び僕と視線を合わせた。



「………そうか」



土井先生は「邪魔したな」と医務室から出て行った。



「…………」

「なぁ、伊作……」



留三郎が僕に声を掛けた瞬間、バサッと布団の中にいた少女が起き上がった。









* * *










 
『行った?ドイ先生行った?』



布団に隠れながら、部屋をキョロキョロと見渡す少女。



「もう行ったよ〜」



斉藤が少女に声をかけた。彼のへにゃりとした笑顔は警戒心を緩ます効果があると思う。



まあ、ただ緊張感がないだけかもしれないが………






『いやー、助かったよ。あの人足も速いし中々しつこくてさー』



斉藤とはまた違う、へらへらっと笑う少女。



長い黒い布を羽織っていて、今まで見た天女様達の変わった着物とも違う格好だ。



…………土井先生があんなに必死に追うって事は、間者?



でも、彼女がいると分かっていて敢えて見逃したのだから謎だ。



僕を含め、留三郎と鉢屋は警戒しているが、斉藤はのほほんと成り行きを見ているし、綾部に関しては外を眺めている。



………うーん、四年生組はもう少し警戒心を持った方が良い気がするよ。



とりあえず名前と何者かを聞こうとしたら、少女の方が先に口を開いた。



『キミ達の正体、当ててあげよっか』



そう言って得意げに微笑む少女を見て、僕達は一瞬で警戒心が増した。



流石に今の発言で、斉藤も表情が強張っていた。



………綾部は、あれ、寝てる。






そうこうしていると、目の前の少女は片手を腰に、片手は僕等を指差し、胸を張ってこう言った。





『キミ達は…………忍者ね!』









「「 え 」」

『え』

「え」



思わぬ発言に、僕達は固まった。



そして、今まで気付かなかったが天井裏に潜んでいた土井先生も思わず声を出していた。






……何なんだろう、この子。






『えっ、違うの?』




いや、違わないけど………




どう…対応すればいいんだ…





ガタンッ!!





閉まっていた障子が勢い良く開き、天井裏に居たはずの土井先生が現れた。



『ど、どどドイ先生だっ!!』






……もの凄く焦ってる。



土井先生、この子に何をしたんだろう。





『えっ、チクったの誰っ?!』



彼女はもの凄く驚いた顔と恨めしそうな顔が混ざったような、微妙な表情で僕達に振り返った。




……チクるも何も、バレバレだったじゃないか。




土井先生は「行きますよ」と首根っこを掴んで、少女を引きずって医務室を出て行った。


 
『あーっ、不覚ーっ!キミ達覚えてなさいよーっ!!』




徐々に遠くなる声で、彼女の叫び声が医務室に響いていた。












忍者のたまごと魔女


(もしかして……)
(あれが天女か?)
((……まさか))


衝撃の対面


 







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