穴から始まる逃走劇5 (5/7)




 
 
 
――――ポンッ




そんな音と共に、ヒナが初めに案内された部屋に現れた。



そう、いきなり。



『うへー、泥だらけじゃん』



ヒナは、呪文を唱え服や体に付いた泥を取り除いた。



さっきの落とし穴に完璧な置き去りにされ、周りには誰もいないという何とも絶望的な状況。



まあ、自分に人避けの呪文をかけている時点で人は来ないだろう。



この世界で知っているのは、学園のオジイチャンの部屋と、案内された部屋だけ。



という事で、必然的に案内された部屋に“姿現し”をしてあの穴から脱出した。



『ったく、覚悟してなさいよキハチローめ』



先ほど発覚した“無表情の彼=キハチロー”。顔は覚えたので後は仕返しするのみ。



『ジェームズ達みたいな、もろ魔法の仕返しは無理だからなー………』



ヒナが頭を悩ませていると、入り口の所に割れた皿や落ちてぐちゃぐちゃになった料理が散らばっているのが視界に入った。



『ありゃ、もしかしてさっきのドイ先生が来たのかもー。部屋出たのバレちゃったよ』



ヒナが杖を一振りすると、割れた皿は全て元通りになり、床に散らばっていた料理は綺麗に消え去った。



『せっかくのお料理だけど、コレばっかりはねー』



とりあえず、元に戻した皿をお盆にまとめて、再び部屋から脱走するヒナ。






しかし、初めての場所という事もあり、辿り着いたのはさっきも通った廊下。



遠目に、さっきキハチローと出会った落とし穴が見える。



(あれが忍者の落とし穴なら、魔女の落とし穴を披露しようじゃないか!)



そんな事を考え一人ニヤニヤとしていると、落とし穴を覗くドイ先生が目に入った。







あ、ドイ先生だ。




あれ多分あたし探してんだよね?




何で落とし穴落ちたの知ってんの?




つい隠れずに見ていたら、土井と目が合った。





「あ」

『あ』





…………………やべ。





あたしはクルッと向きを変え、思いっ切りダッシュした。









* * *









 
「綾部っ!!!」



俺は目当ての綾部喜八郎を見つけ、安心した。



どうやら、まだもう一人の天女には見つかっていないようだ。



隣には、四年は組の斉藤タカ丸もいた。斉藤も反天女派なので丁度いい。



「あ、食満くんだ〜。今日はみんな走ってるね〜」



斉藤ののん気な声に拍子抜けしてしまいそうになるが、それどころじゃない。



綾部の方は、振り向いてこっちを見ているが、視線は合わない。一体どこ見てるんだこいつ。



「まあ無事でよかった。二人共すぐに来てくれ。緊急事態が起きた」



俺の発言に「緊急事態?」と頭を傾げる斉藤と、明らかに嫌そうな顔をする綾部。






……何なんだ、こいつら。






緊急って言ってんだから、もうちょっと慌てたらどうなんだ。こんなに慌ててる俺が馬鹿みたいだ。



いや、実際慌てて当然の事態になってるんだ。自信持て、俺。



「とりあえず、すぐ医務室まで来てくれ……いや、行くぞ」



未だに嫌そうに「えー」とか言っている綾部の腕を掴み、斉藤と共に医務室へ向かう。



どうやら昼餉をまだ食ってないらしく、斉藤に宥められながら綾部は「ごはんー」と嘆いている。






………何か悪い事してる気分だ。






いやいや、現状を考えろ。



飯などと言ってる場合じゃない。



ちなみに俺だって腹減りだ。






今日の定食は何だろうと一瞬よぎった考えを捨て去り、医務室へと急いだ。




 







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