穴から始まる逃走劇4 (4/7)




 
 
 
「ん〜?何だったんだろうねぇ」



タカ丸はへにゃっとしたまま、去って行く土井を見つめた。



「天女様を狙った敵さんでも現れたのかな〜?なんちゃって」



でも、本音を言うとそうだったら良いのになー、と思った。



不思議な魅力を持った天女様。



みんなあっという間に虜になった。その異様さは自分が気が付くまで全然分からなかった。





“気持ち悪い”





あまり女の人に対してそういう感情は持った事なかったけど、初めて気持ち悪いと思った。



髪結いだし、女のお客さんも多かったから綺麗な人も沢山見てきた。



けど、天女様は“何か”が違った。



天女様は、綺麗とも可愛いともどちらにも言い表せないほど美しい。



それこそ人間じゃないくらい。



「喜八郎くん、ご飯行こっか〜」



考えてても仕方ない。



三人目の天女様の時に、耐性が出来たみたいで今回の天女様には惑わされなかった。



その点、喜八郎くんは凄いと思う。



一回も天女様に惑わされてない。



いや、本当は惑わされていたのかもしれない。あの時の喜八郎くんは、穴掘りに対する執着が異常だったから。



「………きれーだった」

「?」



聞こえるか聞こえないかくらいの小さい声で喜八郎くんがボソッと呟いた。



僕が聞き返そうかと思った瞬間、先に喜八郎くんが喋った。



「お腹空いたー」



確かに僕もお腹空いた。



食堂に天女様がいない事を祈って、僕と喜八郎くんはまた歩き始めた。










* * *










 
面白い人に会った。




訳ありの通行人。




初めて見る人だったけど、特に変な感じはしなかった。



ただ分かったのは、物凄くお人好しで馬鹿な人って事だった。



思っていたより深く掘っていた落とし穴のトシちゃん三十九号の中で、お腹も空いたのでそろそろ出ようと立ち上がった時だった。



あんな小柄で年齢も変わらないくらいの女の子が僕を引き上げる力がある訳ないのに、必死に手を伸ばして僕を助けようとしていた。




…………あ、落ちそー。




そう思っていたら案の定落ちた。



僕に向かって落ちてきたから避けたんだけど、変に一回転して背中から落ちた。



顔から落ちたのに、背中で着地なんて運がいいね。悪運が。




訳ありの通行人で、さっきも落とし穴に落ちたらしく犯人の“キハチロー”を探してるらしい。





うん、僕だね。





僕も落ちた被害者と勘違いしていて、僕の分も仕返しするからとへらへらと笑った。



最初のトシちゃん三十九号を覗く訳ありの通行人を見た時は、逆光で気付かなかった。



けど、引き止められて初めて合った視線で、ほんの数秒だけ見入ってしまった。





「………きれーだった」





彼女の、青い目。




もう一回、見たい。




あ、つい口に出ちゃった。



そして、お腹も減った。



早く食べたい。



「お腹空いたー」



タカ丸さんも「そ〜だねぇ」と軽く言って、僕達は食堂へ向かった。





………そういえば、あの人気配が全くなかったな。見上げて気付くまで人がいるって気付かなかった。



変わった布を羽織っていたし、くのたまには到底見えない。



どうやって気配消したんだろ。



あの鈍臭そうな人。











あ、そうだ。



仕返し楽しみー。



少し緩んだ無表情で、ペコペコのお腹をさすった。




 







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