穴から始まる逃走劇1 (1/7)




 
 
 
『おーい、大丈夫ー?』



地面の穴に向かって喋っているあたしは、決して頭がイカレた訳でも可哀想な子でもない。





遡ること数分前…………




え、短い?




仕方ないじゃん、だって本当についさっきの事なんだもん。




案内された部屋を出てから、なるべく人に会わないようにしていたのだが、面白い程会わない。



まあ、自分自身に人避けの魔法かけてるから当たり前っちゃあ当たり前なんだけどね。てへ。



それにしたって、人の気配がない。



(ここ時計ないから分かんないけど、空の明るさ的に朝か昼だから………授業中か?)



腰の辺りに付けたチェーン付きの時計を見て、この世界の時間設定の魔法をかけないといけないなと思ったりしてみたり。



………なんて事を考えながらプラプラ歩いていると、少し先にこんもりと積まれた土が目に入った。



『何だろ?』



好奇心なら誰にも負けないあたしは、勿論そっちへ方向を変えた。



近付くにつれて、それが穴を掘った時に出た土だと分かった。



何故なら、あたしの目の前には、これまた立派な穴が掘られているからだ。








というより、何の穴?







……はっ!






まさか、これ落とし穴じゃ……







「……お腹、空いたなー」



『!!!?』



小さい声だったけど、あたしの耳にはしっかり届いので、思いっ切りビクついた。





だって、穴が喋ったんだよ?!





何?何なのこの穴!




………もしかして人食うの?




え、そうなの??




こわっ!!日本こわっ!!




へたな魔法生物よりこわっ!!






穴の中は人を食うの為の牙でも生えているのでは、と、恐る恐る穴の中を覗いてみた。





え?ビビってただろって?







…………だって好奇心が。







覗いた穴は思っていたよりも深く、牙もない。代わりに、一人の男の子が立ち上がった所だった。








 
* * *









 
………という経緯だ。



『キミもヤツの被害者ね?ほら、あたしの手に掴まって』



彼との距離は、身を乗り出したあたしの手が彼の伸ばした手にギリギリ届くくらい。




え、無謀?




気合いで何とかなるっしょ。







無表情の彼は、手を伸ばす事もなく、ただ此方を見ていた。






『……………』




何コレ。やだ、ハズい。



何で見てんの?



え、助けていい人だよね?



まさかお仕置きで入ってんの?



ぐるぐる思考が駆け巡っている時、無表情の彼の視線が少しズレた。



「あ」



彼が、一言「あ」と呟いた瞬間、あたしを支えている片方の手がズルッと滑り落ちた。



『え』




…………サッ。



どしゃ。







「……そこの土、脆いよ」

『…………』





言うの遅ォォオオオッ!!!





つか避けたよね?



さも当たり前の如く避けたよね?



ふつー受け止めない?



マジないわ。



そんな事より背中痛ッ!!!





顔面から落ちたが、何故か回転したため背中で着地した。



背中めっちゃ痛いけど、顔面からじゃなくて本当良かったよマジで。



『いったー……。ちょっと!キミ今避けたよね?』

「あんた誰」




聞いてねー。



心配もしてねー。



そして悪気全くねーよ。



『……訳ありの通行人』

「ふーん」



彼はそれ以上聞いてくることなく、手に持った鋤を弄っている。



「………」

『………』




何、この空気。



この無表情の彼がストンと座ったので、何となく自分も腰を降ろした。



「………」

『………』



何か、気まずいを通り越して若干落ち着くんだけど。



「………ねぇ」



そんな事を考えていると、無表情の彼から話かけられる。



あたしは『何?』と彼の方を向くが、彼はというと、こっちに見向きもしない。チラリとも見ないで目の前の土の層を見てる。



「何で落ちてきたの?」



え、そこ?



そこから説明すんの?



つか見てたじゃん。



キミを助けようとして落ちるとこ見てたじゃん。



それも目の前で。



そして避けたじゃん!




『それマジで言ってる?』

「何が?」





あ、駄目だ、通じねー。



 
あたしは、この隣の彼を“面倒臭い”と認識した。




 






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