小娘の脱走6 (6/6)
あの自称魔女の天女!あまり出歩くなと言ったのに何処へ行ったんだ!
私は、学園長の安全を確認した後、案内した長屋から脱走した少女を探して走り回っている。
見知らぬ土地についさっき現れたばかりだというのに、しかも忍たまとはいえ忍者がいる屋敷を出歩くなんて………
一体どんな神経してるんだ!!
唯でさえ天女達のせいで限界突破した胃痛が更に悪化していまいそうだよ!
本当に何なんだ!
……………いや、本当は全て狙っていたのかもしれない。
“知って”いるから出歩いたんだ。
また生徒達が天女に………
くそっ!せっかく今の天女が大人しくしているというのに。
これ以上………、この学園を、生徒達を引っ掻き回さないでくれ!!
土井は走るスピードを上げ、自称魔女の天女を探した。
* * *
何て事だ。
今回の天女がちょっと大人しかったのは、もう一人天女が来るからだったのか!
俺はまず医務室に向かって走った。
綾部喜八郎が狙われているのは放って置けないが、まずこの事態を“反天女派”に伝達しなければならない。
それこそ壊れてしまうのではないかと思うほど、豪快に医務室の障子を開けた。
「伊作っ!!!」
ビクッと驚く医務室の主は、天女に何度も被害を受けている六年は組の善法寺伊作。
「ど、どうしたの留三郎」
どうやら怪我で医務室に訪れている人はいない様だ。
こっちもその方が有り難い。
「緊急事態だ、いや、とてつもなく緊急な事態だ!」
「う、うん」
ゆっさゆっさと伊作を揺さぶりながら「緊急事態だ」と一人騒ぎまくっている。
走って来たせいで頭もパニックになっているようだ。
「とりあえず落ち着きなよ」
伊作は俺をを座らせると、お茶の準備を始めた。
俺は待っている間に落ち着きを取り戻し、出されたお茶を一気に飲み干す。
「で、そんなに慌ててどうしたの?」
「………………」
伊作の問いに答える事なく、俺は空になった湯のみを持ったまま俯いていた。
「まさか、天女様関係…………だったりして。はは、当たり?」
冗談じみた笑顔を見せているが、以前のような笑顔ではなく取って付けた様な笑顔だ。
俺達は変わってしまったのだ。
六年は組の食満留三郎……つまり俺は、伊作とは同じ長屋で生活している。天女の出現で仲のこじれた六年生だったが、俺は三人目以降の天女でやっと正気を保てられた。なのに伊作との間には、目には見えない一本の線が引かれている。
そんな伊作に視線を合わし、はっきりと口にした。
「もう一人、天女が現れた」
この時の医務室の静けさは、まるで音が消え去ったかのようだった。
「…………………え」
一気に顔色が悪くなり、その場で固まってしまった伊作。
「……とにかく、反天女派には現状を把握させたい。俺は綾部喜八郎を探して来るから、天井にいる鉢屋を頼む」
「……………う……ん、」
俺は医務室を飛び出し、再び走り出した。
反天女派であり、現在、もう一人の天女に狙われている後輩を探すために………。
荒れる学園、
魅惑の天女(一体何処へ行ったんだ!)
(何処だ!綾部喜八郎!)探す二人、探される二人
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