小娘の脱走5 (5/6)




 
 
 
食事を終え、授業へ行くからと一緒にいた忍たまと別れた。



(どうしよっかナ、ここ一週間くらい事務の仕事やってないしィー……)



ワタシがトリップしてきた時、とりあえず良い印象を与えたかったから事務を手伝うって言ったのが懐かしい。



最初はそれとなくやってたんだケド、事務って思っているよりめんどくさい。



上手く言いくるめて、なるべく避けていたけど、小松田君もいいよって言ってたし大丈夫だよネ。



とりあえず顔を出すだけでもして、申し訳なさそうにしてればいっか。



羽衣が事務室に向かおうと進路を変えた時、盆に食事を乗せた土井と遭遇した。



「あ、土井先生ェ!」



ワタシはとびっきりの笑顔で土井先生に近付いていった。



「……あ、天女様。こんにちは、お食事は取られましたか?」

「はいッ!気遣ってくれてありがとうございますゥ!」



土井先生はニコリと微笑む。



やっぱり大人の余裕っていうか、魅力がハンパないよネ。



前の天女達に対しても、こんな風に優しく笑ってたのかな?



なんかムカつくゥー。



でも、ワタシ以上に美人で可愛い子はいないと思うから、土井先生を落とせるのもワタシだけだよネ。



………っていうか、このご飯誰に持ってくの?学園長?それとも誰かお客がいるのかな?あ、もしかして利吉さんとか?でも利吉さんなら食堂に食べに来るよネ。



「そのお食事って、土井先生のお食事ですかァー?」

「……ああ、ちょっとお客様が見えているので、その方の昼餉です」

「そおなんですか、やっぱり土井先生ッて優しいんですネ!」



照れたように微笑むワタシは、きっと誰が見てもキュンとする顔だと思う。



「いえ、どうぞお気になさらないで下さい。天女様にそう言って頂けるだけで十分です」

「天女様なんて堅苦しいですゥ!名前で呼んで下さいって言ってるじゃないですかァー」

「すみません、善処しますね」



土井は軽くお辞儀をして去って行った。



もしかすると、大事なお客なのかもしれない。



(でも、今のはかなりポイント稼いだよネ!土井先生も内心ドキドキだからバレない様に行ったんだわ、きっと)



羽衣は通りすがる忍たま達に愛想を振りまきながら、小松田に会うため事務室へと向かった。










 
* * *










「あ、いいですいいですぅ〜。僕やっときますんで、天女様はゆっくりしてて下さぁ〜い」

「いいのォー?小松田クン優しいんだネ、いつもありがとォ」



目一杯申し訳なさそうにして、最後にはとびっきりの笑顔でお礼を言って事務室を後にした。








羽衣は、自分の部屋に戻りながらゆっくりと思考を巡らせていた。




この約一ヶ月は、愛想を振り撒いて先生や生徒に好印象を与えた。



まだ警戒している忍たまがいるのは計算外だったけど、すぐ自分の事を好きになるだろう。





だって、この“忍たま乱太郎”の世界のヒロインはワタシなのだから。





ぶっちゃけ、現代には帰るつもりはない。



この世界の全てを把握している優越感、現代では体験できない刺激的な日常、そしてこのイケメン率。



手放す要素はゼロだ。



ただ、現代育ちのワタシにとって、ここの生活は不便極まりない。



しかし、そこはワタシの美しさに免じて誰かが手を貸してくれるので問題ない。



今の所まんべんなく相手をしているし、贔屓目はない。自分に寄ってくる忍たま達は、この美しさ故であり、逆ハー補正による好感なんてモノはほぼゼロに等しい。



出来れば全ての男は自分を好きになって欲しい。しかし、恋人や結婚したり出来るのは一人だ。



だから、



イケメンで、ワタシの為に何でもするワタシだけの王子様を見つけなくちゃネ。






そろそろ、ワタシを愛し過ぎて争奪戦をして貰わなきゃ。だって品定めをしなくちゃいけないでしょ?






羽衣はクスッと笑い、自室へと入っていった。




 







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