元忍者ですけど何か?
「懐かしいな!!こうやって一緒に任務するの!」
「任務って訳じゃないけどね」
「おいもう着くぞ」
過ぎ去る景色を見ながら、昔、共に任務についたことを思い出す。再びこうやって、ろ組で同じ任務につけるなんて思ってもみなかった。
あの頃のような体力や力はもうないだろう。
でも、あの頃に培った技術や知識は今でも私たちの中に残っている。
小さくなってしまってからしばらく経ったが、毎日鍛錬していた成果は確実にあった。
元々運動神経は良い方だ。まあおそらく前世が忍者だからその影響もあるのだろう。
つまり体が元に戻った私たちは、忍者の感覚を取り戻したうえに、あの頃とまでは言えないが体力や力を取り戻したのだ。
いやもう本当、Z印神だわ。
というか善法寺先輩が神だわ。
体も元に戻り、忍者の勘を取り戻した私たちはある意味最強である。
目的地まであと少し。
徐々にスピードを落とした所で、私たちは静かに立ち上がった。
――――次は、北帝丹ダム前。北帝丹ダム前です。
そして私たちはバスから降りた。
「いやぁやっぱりこの時代は便利だよな!走るより早く目的地に着ける手段があるんだから」
「そりゃ体力はなくなっちゃう訳だよね」
「ほらハチも雷蔵も行くぞ」
江戸川コナン。
探偵だかなんだか知らないが、一般人が拉致などの現場に突っ込んでいくなんてアホだな。
ふん、まあ一応元チビ仲間だから助けてやらんでもない。
「ダムまでは走るぞ」
「余裕!」
「じゃあ行こうか」
忍装束は着ていないが、きっと今の私たちは紛れもなく忍者だ。
塀や木々を飛び越え、私たちはダムへと向かった。
* * *
「ふん、呆気ないな」
「こらこら三郎、いくらこの人がミジンコみたいに弱いからって油断しないの!」
「雷蔵なかなか言うな!はははっ」
目的地に到着した私たちは、とりあえず手分けして江戸川を探した。
どうやらダムは当たりだったようで、ダムの管理棟で複数の人の気配を見つけた。
とりあえず中の状況を調べたところ、そこそこ腕の立つ殺し屋と雑魚三人組、そいつ等に捕まっている江戸川ともう一人拉致されたであろう子ども。
私は全員の観察が済むと、雷蔵達に合図を出し外から物音を立てて敵をおびき出す。
運良く雑魚三人組の下っ端が出てきたので、一瞬で落とす。この感覚が懐かしいと思うのは、今の時代が平和な証拠である。
サッサと身ぐるみを剥ぎ、瞬時にこの男の顔に化ける。うん、腕は落ちていないな。
「あの殺し屋だけ厄介そうだが、あとは問題ない」
「三郎、今回僕たちは殺しが目的じゃないからね」
「わかっているさ」
せっかく平和な世で二度目の生を受けたのだ。この手を再び血で穢したりするものか。
「俺は援護に回るよ。さっき烏丸に頼んで勘ちゃんと兵助をこっちに向かわせてる。そんなに離れてないからすぐ合流できる」
「了解」
「じゃあ行こうか、三郎」
あんまり遅くても怪しまれる。私は縛り上げた雷蔵を連れて、何事もなく侵入した。
* * *
「こそこそと尾行してきたのか?ヒヒヒ、ご苦労だったなガキが!」
「ぎゃははは!捕まるあたりとんだ大馬鹿野郎だな!」
「くっ、兄として、弟は守るものだからね!」
「んー、うるさい」
ゲシッと雷蔵を蹴る殺し屋の男。あいつ私の雷蔵を蹴りやがったな?うるさいとか言って蹴りやがったな?許さん百倍どころか一億倍でお返ししてやる待ってろクソが。
「(三郎顔キモい)」
「(えっ)」
「(あとは頑張って)」
「(わかった!)」
うん頑張る!!
もう雷蔵大好き!!
雑魚三人組の一人に変装し侵入した直後、江戸川の方から“ナニ”かが飛んできた。軽く避けると驚いた顔をしていたが、あの程度なら誰でも避けれる。とりあえず、これ以上はおとなしくしてもらわなければ困る。作戦の邪魔だ。矢羽音で雷蔵に江戸川をおとなしくさせるよう伝え、それからは現在に至るまで様子を窺っている感じだ。
まあ、元の姿では初対面だからな。
だがまあ、雷蔵の演技に合わせて兄弟っぽくしている辺りはそこそこ空気が読めるらしい。
そうこうしている内に、外から「合流した」という矢羽音が飛んできた。よし、じゃあそろそろ……
「ねぇ」
次の段階に進もうとした時に、殺し屋の男が私に話かけてきた。
「あんたさ、誰?」
こいつ、まさか気付いたのか。
「(作戦変更)」
私はすぐに全員に矢羽音を飛ばす。
「何言ってるんですかシャドウさん、今までの拉致の時も一緒だったじゃねぇですか」
「えー?だってさ、この人ニセモノじゃん」
「へっ?」
チッ、いくら平和な時代でも“闇の住人”には通じないか。
私の腕も落ちたものだな。
天井や窓から矢羽音が飛び交う。
さあ、勝負だ。
ボフンッ!!!
「なっ!!」
「うわっ!」
「……!」
現代版仕様の煙玉で煙幕を張る。
縄抜けなど雷蔵にとったら朝飯前で、江戸川を抱え天井へと向かう。
もう一人の子どもは天井から現れたハチが回収する。気絶してくれているので助かった。あの年齢ならば騒いで居場所がバレてしまうからな。
「(終わったよ)」
「(こっちもだ)」
兵助と勘ちゃんから、雑魚三人組の残りを捕らえたと矢羽音が届く。
さすがい組だな。
さて、問題は、
「んー、面倒だから殺るね」
「ふん、やってみろ」
この煙幕の中、的確に私を狙ってくる殺し屋の男。確か、名はシャドウとか言っていたな。
よくは見えないが短刀のような物で、躊躇なく攻撃してくる。
だが、やはり違う。
いくら凄腕の殺し屋でも、所詮は平和な時代の人間。
幼い頃から死と隣り合わせで生き抜いてきた私たちとは違うのだ。
「貴様シャドウとか言ったな」
「馴れ馴れしいね、死んでよ」
「それは御免だね」
貴様が優秀な殺し屋なのは認めよう。攻撃の際も隙は少ないし、私の変装を見破る程の洞察力もある。
しかし、相手がこの鉢屋三郎ならば話は別だ。
「……っ!!」
この時代で初めて発する本気の殺気に、一瞬戸惑うシャドウという殺し屋。
私はその隙を見逃してやるほど優しい奴ではない。即座に距離を詰め背後に回り込む。
「私の知っている“斜堂”さんの方が格上だな、シャドウさん?」
バタリと倒れるシャドウという殺し屋。ふん、たいしたことはないな。
徐々に晴れてきた煙幕の中、縛り上げた三人を引きずり外へと向かう。
空は既に暗く染まり、月だけが周りを明るく照らしている
江戸川達を先に逃がした雷蔵とハチが、外に縛っておいたもう一人の仲間をこちらに放り投げる。
「おい江戸川、色々聞きたそうな顔だが、まずは警察を呼べ」
「あ、ああ」
余程のミスがない限り、私たちのいた証拠は残っていない。そこの点も抜かりはない。
「お前ら、一体何なんだよ」
警察に電話し終えた江戸川が、警戒するような目で私たちを見上げている。
私はその質問に対し、変装の顔を外してニヤリと口角を上げた。
「お前と同じ、ただの高校生さ」
ふん、忍者なめんなよ探偵!
(任務終ー了ー!)
(とりあえずちよ子に会おう)
(そうだね!)
(お礼言わなきゃな!)
(お礼の豆腐を作るのだ!)
((それは止めとけ))
とある学園の元忍者たちの話
← | →
[17/18]