速報、任務を言い渡す




 
 
 
善法寺先輩たちに出会ってから、またしばらく経ったある日。



今日も今日とて、公園で忍者ごっこという名の鍛錬をしている時だった。



「おい兵助、あれ」

「?」



ハチに指差された方を見ると、よく三郎と言い合っているチビ仲間の江戸川が険しい顔で走っていた。



「“らち された くろの そしき むかう”……駄目だ、口元が見えなくなった」

「さすが兵助!俺たちの中で一番読唇術得意だっもんな!この距離でそこまで読み取れるなんてすっげぇや!」



にかっと笑うハチ。



俺はハチの方がすごいと思う。



ちょっとオツムは弱い所があるし空気読めないしデリカシーないし髪ボサボサだしイビキもうるさい。



でも、回りには、人が集まる。



生き物だってそうだ。



ハチの回りには自然に集まって、みんな幸せそうで、だから獣遁も随一で……



現に、鍛錬場となっているこの公園付近にいる野良猫や野良犬を含め、烏や鳶まで手懐けている。



それは俺にも勘ちゃんにも三郎にも雷蔵にもない天性の才能だ。



それに気付かないで、ハチは俺を凄いと褒める。



俺なんて秀でた部分がないから、知識を詰め込んだだけの頭脳と体に無理矢理覚え込ませただけの技術だ。



でもまあ悪い気はしない、うん。



「どうした?」

「何かあったー?」

「あっちの方見てたみたいだけど……」



向こうで筋トレしていた三郎と勘ちゃんと雷蔵が駆け寄って来たので、俺とハチは簡潔に先程のことを伝える。



「黒の組織って江戸川の追ってる奴らで、私たちの幼児化の原因でもある奴らじゃないか」

「うーん、そのことを話してたってことは……」

「多分あの子だよね!阿笠博士の所のえっと確か、哀ちゃん?だったっけ?」



この件は他人事ではなさそうだ。



「行ってみようぜ!」

「俺もハチに賛成なのだ」



一旦鍛錬を中断し、俺たちは阿笠博士の家へと向かった。









* * *










 
「貴方達何を言ってるかわかってるの?!!ただでさえ工藤君が馬鹿なマネしているのに!!」



阿笠博士の家に到着し、単刀直入に先程の件を問い詰めたら怒られた。現在進行中で。



「江戸川は元々バカだから仕方ない。それより、今江戸川が追っている奴を捕らえれば進展するのか?」

「馬鹿な考えはやめなさい鉢屋君。まず第一に貴方達の手に負える問題じゃないわ」

「でも俺、結構拷問得意だよ?」

「貴方の性癖に興味ないわ尾浜君」



どう聞き込もうにも、灰原さんは今回の黒の組織に関する情報を話そうとしない。このままでは一向に進まないのだ。



「あ、ちよ子さんからメール…………っ!!!!?」

「どうした雷蔵?」

「善法寺先輩が薬完成したって」

「本当か!」

「ちょっと待ちなさい!薬って何の事?!貴方達一体何をしているの?!」



ガタッと椅子から立ち上がる灰原さん。その背後に気配を消しながら回り込む三郎。



「ふーん、このバッジ、トランシーバーみたいな機能が付いているのか」

「!!……いつの間に!返しなさい!!」

「やだね。多分、これか?じゃあ早速。“ちょっと今どこにいるの!”」

「なっ……私の……声?!」



三郎の変装名人の腕はまだ健在だ。



―――ザザ……灰原……ザザザ……今から…ザザ…する!俺から連絡……そっち……ザザザ…するな!



ブツッ!という音と共に通信が途切れる。ノイズに邪魔されたが、どうやら江戸川は敵地に到着し今から侵入するらしい。単独行動で連絡が取れないのはかなりのリスクだと思うのだが。



「灰原さん。このトランシーバーみたいなバッジの通信可能距離はどれ位なのだ」



灰原さんは渋々という表情で「半径約20キロメートルよ」と呟いた。



「半径20キロメートルか。じゃあここから半径20キロメートル付近の水がある場所を探そう」

「何故水場付近なの」

「は?さっき江戸川の声と水の流れる音が聞こえただろ」

「……貴方どんな耳してるのよ」



さすが三郎。


 
「ハチ、お前は獣遁で探れ」

「雷蔵はちよ子から薬を頼む」



三郎はバッジを灰原さんに返し、俺たちに指示を出していく。


「了解!」

「じゃあ僕はちよ子さんの所行ってくるよ」



二人が阿笠博士の家から走り出た後、三郎がどこからともなく地図を出してきた。



「現在地はここ。ここから約20キロメートル前後の水場を特定するぞ」

「えーっと、うん、おっけー。計算できたから定規ない?範囲は赤ペンで囲むね」

「……この圏内なら海も含まれるな。大小かかわらず川や湖も複数あるから特定は難しそうなのだ」



これはハチの獣遁に頼むしかないか。



水場のあるところに印を付けていたら、タイミングよくハチが戻ってきた。珍しくハチが空気読んでる。明日雨かも。



「待たせたな!江戸川は北東に向かったらしいぜ。それ以降は見てないってさ」

「見てないという事は、建物の中の可能性もあるねー」

「だがその情報でかなり絞られた。北東のギリギリラインにある水場はこの二つだ」

「ダムと川だな」

「おそらくダムの方が人数が必要だから私たちろ組が行こう。勘ちゃんと兵助は川の方を頼む」

「了解。ダムの方が怪しいからあとで合流しに行くよ」

「ああ、助かる」



作戦が決まった辺りで、灰原さんが驚いた表情で俺たちを見つめていた。



「………貴方達、一体……」



もうすぐ、日が暮れる。



夜は忍者のゴールデンタイムだ。



「ただの学生だよ」

「とある学園のな」



そう、俺たちは元忍者だ。











(…よし!いっちょやるか!)
(ああ、今度は失敗などしないさ)
(ちゃんと鍛錬もしたしね)
(じゃあみんな、行くのだ!)
とある元忍者たち、出動!


 








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