江戸の侍にろくな奴はいない
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ああ良かった。丁度良いところに生け贄、ゲフン。奴隷候補がいて。



晋ちゃんったら壊す壊すとか言ってるけど意外と一途なピュアボーイだったんだね。ぷぷ、今度手配書に書いといてやろう。



「うわぁっ!!」



そんな事を考えながら歩いていると、少し先に見えていた人が、消えた。



いや、そもそも人なんて居なかったのかも。うんきっとそうだ。



「ちょ、お銀さんっ!いますいます!ちょっと手を貸して下さいお願いします!」

『あ、不作君だー。なんでそんなとこにいんの?家?マイホーム?』

「家じゃないです!よくわかりませんが多分まいほぉむでもありません!」



あたしは穴に落ちた不作君を引っ張り上げると、彼の土で汚れた忍装服をパンパンとはたく。



「ちょ、お銀さんっ!じっ自分でできますから!」

『え、照れてんの?何ガキがいっちょ前に照れてんの?さては不作君、キミ初心だろ』

「違っ、そうじゃなく、痛っ、お銀さんっ、力入れてはたくのやめ、痛っ!」



余程恥ずかしいのか、若干涙目の不作君。こらこら、男の子が泣いちゃダメだぞ、めっ!



「ちょっとちょっとォ、年下イジメちゃダメでしょォ〜」

『……げ、』



そこにいたのは、ラスボス……じゃなかった。あたしの血を分けた兄妹の、歩く糖尿病。





何だこのオンパレード。









* * *










 
………痛い、背中やら尻やらが痛い。穴に落ちたからではなくて、お銀さんに叩かれたところが痛い。これきっと真っ赤だ。



多分本人は汚れをはたいているつもりだったんだろうけど、あれは叩くって言うんだよ。ぐ、痛い。



「ねェねェ銀千代ちゃん、今はここで働いてるんだって?ん?衣食住とお給料も貰ってるんだって?ん?やっぱさァ、持つべきものはデキる妹だよな。俺に甘味奢ってくれるんだもんな?な!」

『何言っちゃってんの?バカなの?アホなの?クソなの?ちなみに今月の給料は一昨日全部賭博でスったわボケェェェェッ!!』

「えええっ!ちょ、お銀さん!貴女いつの間に賭博場に行ったんですかっ!」



し、知らなかった!世話役なのに知らなかった!くっ悔しい!最上級生として悔しい!



『だから今からこの不作君と甘味屋に行くんだよ邪魔すんなよ。やっと面倒クサい三人をまいたんだよ。あたしはタダで甘味食いたいんだよ』



………お銀さん、貴女って人は、その、とても正直ですね。



「え、何それ、銀千代はこのガキとデキてんの?え、うそマジで?兄ちゃんの公認ナシで付き合っちゃってんの?おいガキ歯ァ食いしばれ」

「ちょちょちょ、待って下さい僕たち恋仲じゃ、ごふっ」






木刀で殴られました。




「え、付き合ってないの?まァよく考えりゃそうだよな、銀千代が俺より先に恋人出来るとかナイな」

『あるわボケ。お前と違ってモテるんだよあたしは。あー大丈夫?不作君。ウチの兄貴って話聞かないんだよね』



さすが兄妹ですね、……い、痛い。



『銀ちゃんなんか放っといて、甘味屋行こうか。不作君の奢りだなんてお銀さん嬉しいっ!』

「マジで?いやー悪いね。不作君?だっけ?キミなかなかいい子だねェ〜」



あれ?何か僕が奢るって話になってるけど、あれ?そんな事一言も言ってないんですけど。


 
『ちょっと、兄貴は来ないでよ加齢臭が移るから。甘味屋には若い不作君と若いあたしで行ってくるから』

「俺はまだ若いから!お前と年あんまり変わんないから!あと兄貴じゃなくてお兄ちゃんって呼べって言ったじゃん!」

『鬱陶しいっ!!このオッサン鬱陶しいっ!!』

「いたたたたっ!ちょ、お銀さんっ、ううううう腕がっ!!」



捻り上げてるっ!無意識に僕の腕をあらぬ方向に捻り上げてるぅぅぅっ!!



「オッサン言うな!兄ちゃんを見ろ、こんなにイケメンでこんなに爽やかな少年の心を持ってんだぞ」

『黙れマダオ。あたしの方が美人でしかも心もキレイな乙女だコノヤロー』



何かもうただの兄妹喧嘩になってる。僕が甘味を奢るとかの次元を越えた兄妹喧嘩になってる。もの凄く立ち去りたいけど、お銀さんがまだ僕の腕を握っているままなのだ。いや、捻り上げているままだ。あれ、だんだん腕の感覚が…



『だいたい、あたしの方が銀ちゃんより不作君との付き合いが長いし!めっさ仲良いし!親友飛び越えて心友だし!』

「時間なんて関係ねェし。俺なんか会った瞬間からビビッと来てたし。すでに心と心が繋がりまくってるし」

『はァ?何言ってんの?不作君が銀ちゃんなんかと仲良しになるワケないじゃん。あたしの事ちょー好きって言ってたし』

「そういうの勘違いって言うんだけど知らないの?あちゃー、どんまい銀千代!不作君は俺の方が好きって思ってっから。口に出してないけど伝わってきたし」


『あたし好きだよね!ね!不作君!』
「俺が好きだよな!な!不作君!」



「は、はは……」



いや、あの、えーっと、もう本当どうでもいいので帰って下さい。



あとお銀さん、腕が限界越えてます。







 
個性溢れる迷惑集団


(また全助とっ…!)
(誰かこの男の話を止めさせろ!)
(…その、一応変装名人でして、)
(ああ、今日も不運だ……)


我等はフリーダム










 



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