二度あるキスは三度ある



離れていく唇は何時もと変わらないものだった。やんわりと体温の伝わる暖かさ。肌をくすぐる髭。何時もと同じなのに、そう感じられないのはきっと自分の気持ちが不安で一杯だから。

「じゃあ、行ってくる」
「……」
「帰りはまァ多分3日後くらいじゃねェか?気楽に待ってろよ」
「……」
「良い島じゃねェから土産とかは買えねェけどよォ…お嬢様?」
「……」
「おいお嬢様、どうした?」

俯く私を覗き込もうとする彼。呆れたのか頭をわしゃわしゃと掻いて溜息なんかもついている。
困らせてるのくらい分かる。これから任務に赴くんだ、気持ち良く送り出して貰える方が良いに決まってる。
そんなの、分かってるけど。

「なァ…何かあったのか?」
「……最後かもしれないでしょ、キス」
「は?」

何言ってんだ、みたいな顔しないで。私だって格好悪くて情けないけど、でもやっぱり貴方が必ず帰って来る保証なんて無いじゃない。強くても、能力者でも。死なない保証は何処にも無いよ、ジャブラさん。

「私、ジャブラさんと恋人になれてから行ってらしゃいとお帰りなさいのキス…2回ずつしか出来てません」
「ん?お、おぅそうだったか…」
「もっと沢山キスしたいし一緒に居たいのに…ジャブラさんが任務に行けば帰って来れない可能性だってあるから、不安…です」

言い逃げする訳じゃないけれど、俯かずはいられない。同じCP9である自分の精神力がこんなに弱くて脆いだなんて恥ずかしい。目頭だけがどんどん熱くなって彼の反応を知るのが怖かった。

「お前…」
「ご、ごめんなさい…!私、困らせるつもりじゃ…ッ」

そっと頬を撫でる指に釣られるように顔を上げれば、優しく微笑む彼と目が合った。はにかむような口許にどきりとする。

「そんなに心配してくれてるたァ知らなかった。そうか、お前何時も気丈に送り出してくれてたんだな。気付けねェで悪かった」
「…う、ん」

涙が溢れ出しそうになる私の目許を一撫でしたジャブラさんは「でもよ」と前置きして、それからキツく抱きしめてくれた。暖かい腕の中は酷く心地良い。

「そんな心配は要らねェ。お前が気に病む事はねェんだ。あー、何だほら2度あることは3度あるって言うだろ」
「うん…?」
「今まで2度の任務はちゃんと帰って来たじゃねェか。だから今度も必ず帰ってくる。つか、3度どころじゃねェ、何度でも何年先でも約束する」
「……、」
「なァお嬢様。おれは必ずお前のところに帰ってくる。だからよ、もう泣くな」
「う…ん」

私の返事にくすりと笑ったジャブラさんは少しだけ身体を離して額に小さくキスをくれた。額だけじゃない。頬にも瞼にも優しい口付けが降って来るのが擽ったくて、それでいて込み上げて来る幸せな気持ちを抑えられない。

「気楽に待ってろ。お前が帰りを待ってっかと思うと、任務にも気合いが入るからな」
「うん。無事に帰って来るまでずっと待ってますからねジャブラさん」
「おぅ。じゃあ…もう1回しとくか」
「…?」
「馬鹿、キスだ狼牙。変に回数を気にするお前が数え切れねェくらいこれから沢山すりゃ良い。それなら不安も忘れられるだろ」
「…っ、」

一気に頬に集まる熱。胸の鼓動が煩く鳴り止まない私にジャブラさんが重ねてくれた唇は何時も通りで、けれど少しだけ深い。余韻を残しながら離れる私達は暫くの別れを惜しみ合った。
そこにさっきまでの不安なんて存在しなくて、ただ彼が好きな気持ちだけが大きく膨らんでいた。

2度あるキスは3度ある





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