泣きっ面にキス
霙交じりの重たい雨が地面を叩く激しい雨音。
こんな夜は早く眠ってしまえば良いものだが、一度耳に付いた音は中々離れる事は無く、ジャブラを眠らせてはくれなかった。
否、ジャブラの眠りを妨げるのは雨風の喧しさだけでは無かったのだ。
「おいおい、暢気なもんだな」
雨だ、風だ。こんなに五月蝿い夜だと云うのにお嬢様はこんなにも安らかな眠りについている。
しかも…――。
「普通…男の寝室でこう無防備に寝れるもんかねェ…?」
枕を抱き、毛布に足を絡め露わになる太腿と、着崩れた寝巻から零れる乳房。
「それに“パンチラ”のサービス付きたぁ…――良いもん見さしてもらった」
いや違う。全く以て、目の毒だ。
そんな複雑な心境に溜息を付くと、ジャブラはお嬢様の枕元に腰を下ろし、其の寝顔を覗き込むも目覚める気配すら無い。
「おい…お嬢様、起きろ。てめぇの部屋戻れって」
「…―――。」
「チェッ…熟睡じゃねェか」
頬を突こうが、鼻を摘まんでやろうが一向に起きないお嬢様を目の前に、もはや嘆くしかない。
ならば、とジャブラは髪を撫で、其れを耳に掛けながら耳元で小さく囁いた。
「さっさと起きねぇと、俺の良いように犯っちまうぞ」
暖かな頬。
薄く開いた唇。
閉じた瞼。
それを順に指先でなぞり、それから。
「いいのかよ、お嬢様?」
其の瞼にそっと触れるだけのキスを落とす。しかし、それでも目を覚まさない。
「なぁ…ほら、起きろって」
慌てて目を覚ました時のお嬢様の反応見たさに、少し。
ほんの少し脅かしてやるつもりだった。なのに、こうしてお嬢様に触れる度、其の体温の温かさが恋しくて。
如何にも、欲しくてたまらなくなっていた。
「起きろよ、…――いや、いい。まだ起きてくれるな」
気付けば、ジャブラは眠るお嬢様の上を跨り其の首筋に頬を寄せ、くんと鼻を鳴らしていた。
「ハッ…これじゃァ、まるで…雄犬だ」
呼吸をする度、お嬢様の身体から、髪から誘惑的な香りが舞う。
「…――クソッ。」
無防備な其の幼さ漂う寝顔からは想像出来ない寝乱れ姿。
「…――糞ッ…ホントに犯っちまうぞ?」
「いいよって云ったらどうする?」
其の声に途端、心拍数が乱れ不意に顔を上げれば、目は閉じて居るものの唇に笑みを浮かべるお嬢様が視界に入った。
「…――起きてたのか?」
「…ううん、今起きた」
そう欠伸をするお嬢様の吐息。僅かに酒の匂いが漂う。
「なんだ、飲んでたのかよ?」
「ちょっとだけね」
だから、か。
ジャブラは呆れたような溜息を吐くと、酔払うお嬢様を窘めるように額を小突いた。
「じゃ、早く其処退け。ったく…ビビったぜ」
休もうと部屋に来りゃベット占領されてるし、お前は起きねぇし、で。
「あ、うん…ごめん。で、どうするの?」
「なにが?」
「私とシたい?」
「ハッ…酔っ払いが。俺を試すような真似するな」
…――まァ。こんなんで“御預け”くらったら眠れやしねぇってのが本音だが。
「どうする?」
「そりゃコッチの台詞だ」
視界に痛い腿の鮮やかな肌色にジャブラは喉を鳴らした。
「どうしたいの?」ひっく…。
酒に侵されたお嬢様の虚ろな瞳が僅かに揺れる。
絡み合う視線。
「あー…くそ。今更止められねぇかンな?」
どちらかと云えばお前が“ヤリたい”ってだけだろ?
「そんなんじゃないもん」
「うるせー、黙ってろ」此方人等もう、限界なんだよ。
「ちょっと待…――ン、ンッ!」
振り上げられた腕を容易に捕え、其れを寝具に縫い付ける。
「待って、待ってったら!」
「待、た、ね、ェ!」
好き勝手に衣服を剥げば、露わになる身体。寒そうに、恥ずかしそうに震え俯くお嬢様の其の表情は此れ以上ない程に劣情を誘う。
「…やらしい身体」
そう云って唇に噛み付き、男を誘惑するかのように揺れる乳房を揉みしだく。
「ンぁ…ジャブ、ラ…――」
掠れた声でそう鳴くお嬢様にジャブラはニッと笑ってみせた。抵抗する女が観念する瞬間と云うのは、なんとなく伝わる“いや”だの“待て”だの威勢の良かった口が途端、しおらしくなるからだ。
「ウ、ンッ…ン…あ…――ッ」
互いの唾液でドロドロになった唇から控えめに零れる甘ったるい吐息。
「へっ…お嬢様とは、昔っからの付き合いだが…」何時の間にこう“女”になっちまったのかねェ?
執拗に舌を絡め、少しずつ熱を加えれば緩くなった腿を擦り合わせながら、物欲しそうに唸るお嬢様の卑猥な悲鳴。
其れに気付いたジャブラは不敵に微笑むとお嬢様の両膝を限界まで押し広げ、ゆっくりと指を忍ばせれば膝を震わせ悦ばれる。
「グズグズじゃねぇか…ン?」
「ンぁッ、あ…ッやだ…違うッ」
「なぁにが違うンだよ?」
指先をくい、と曲げ更に奥深くお嬢様を貫く。と、同時に興奮し腫れ上がる陰核を親指で転がし押し潰した。
「やぁッ、や…ンッ、あッ」
「“や”ってこたぁねぇだろう?」“もっと”の間違いだよな?
そう云って、容赦なく指を突き上げればお嬢様は嗚咽なのか悲鳴なのか分からない声をあげて只ひたすらに泣いた。
“かっわいい…――”
もっと、もっと。壊れるまで“鳴かせて”やりたい。
ジャブラは内壁を抉るように指を動かしながら、涙と唾液で汚れた顔に口付けを落とした。
それでも尚、きつく締め上げる膣を更に撹拌させれば“いよいよ”お嬢様は絶頂を鳴き叫んだ。
「ジャブ、ラ…も、もっ…ホントッやめ…」
グズ、と鼻を啜り涙を拭うこんなお嬢様が愛おしくて仕方ない。
「糞ッ…あぁー…やべぇカワイイ。止まらねェよ」
「あたし…や、だから…ッ」
「なにが?」
「確かに…酔ってたけど、ちゃんと…――ジャブラが…好きなん、だ、から…ッ」
同じ気持ちじゃないなら“最期”までするのはイヤだ。
…――馬鹿が。ンなの俺だってそうだよ。
「好きじゃなきゃ抱かねぇよ」これが答えじゃ不服か?
「い…ッ、それな、ら…いいッ」
涙に滲むお嬢様の目元。
ジャブラは舐めるように其処にキスをくれてやった。
end